REPORT
刊行物・研究報告
コラム
2022.10.14
Fukuoka Growth リアル
URC 都市情報コラム
Fukuoka Growth リアル
“Fukuoka Growth”は、福岡市の成長性を示すさまざまなデータを紹介する福岡アジア都市研究所 情報戦略室が2年おきに発行するデータブックです。
“Fukuoka Growth リアル”では、最新の統計等から、福岡市の情報をリアルタイムにお届けします。
FGリアル 2
[Oct 14, 2022]
福岡市の昼と夜・居住地と通勤地の話 ~令和2年国勢調査従業地集計が公表されました~
総務省令和2年国勢調査の従業地別集計が発表されました。国勢調査は、国民全てが調査対象の全数調査で、年齢や就業状況、従業地などが調査項目に含まれます。年齢別の人口は既に昨年には公表されていましたが、従業地・通学地による集計が7月に公表されました。
昼間人口が膨らむ福岡市
前回のFukuoka Growthリアル01でもみた通り、令和3年経済センサス活動調査結果に見る、福岡市の従業者数は100万人近くにのぼります。令和2年国勢調査では、居住地別に、従業地、つまり通勤先の調査が行われています。
国勢調査での令和2年時点の福岡市の総人口は161万人あまりで、政令指定都市では5番目の規模です。
この総人口は、別名「夜間人口」と呼ばれるのに対し、福岡市外から通勤や通学で流入してくる人を含めた人口(福岡市外へ通勤・通学する人を差し引いた数)は、「昼間(ちゅうかん)人口」と呼ばれます。もちろん、夜間に従業して通勤等をする人もいますが、統計上は、昼間人口とは、夜間を含む通勤等で移動した先のことを指します。
この昼間人口と夜間人口の比率を表すのが、「昼間人口比率」(昼間人口/夜間人口・%)で、この比率が高いほど、周辺市町村から、多くの人が通勤・通学で流入し、地域における拠点性が高いということができます。国内21大都市の昼夜間人口比率は、福岡市は109.8%で、昼間人口が約1割増加しています(図1)。これは、大阪市、東京23区、名古屋市の国内3大都市に次ぐ高い拠点性を有していることがわかります。多くの政令指定都市は、周辺市町村からの流入傾向を示していますが、横浜市や川崎市など、東京以外の関東の政令指定都市は、いずれも昼間人口が夜間人口を下回り、市外(主に東京)へ多くの人が流出しています。
福岡都市圏との結び付き
では、福岡市で働く人は、どこから流入しているかについて、近隣市町の15歳以上就業者のうち、従業地が福岡市の人の割合は、広範囲で高い割合を示し、全就業者の4割以上が福岡市で働いている市町も多数あります(図2)。
福岡市は、周辺市町とともに17市町からなる福岡都市圏を構成し、各市町とともにさまざまな連携事業を行っていますが、これらの市町は、全て福岡市への通勤率が10%以上であり、通勤などで日常的に交流が深いことがわかります。
地方最大都市における通勤圏
前図の通り、福岡都市圏17市町以外では、小郡市と佐賀県基山町が「10%通勤圏」です。
福岡市同様、地方の中心都市として位置付けられる3市、札幌市、仙台市、広島市の「10%通勤圏」の範囲と比較します。
北海道最大の都市・札幌市は、周辺市町含む8市町、東北地方最大の都市・仙台市は、同じく18市町村、中国・四国地方最大の都市広島市は、同じく8市町、そして九州地方最大の都市・福岡市は、同じく19市町です(図3)。
札幌市、仙台市、広島市、福岡市は、広く周辺市町村から従業者が通勤していますが、福岡市はこれら地方大都市の中では最も昼間人口比率が高く(図2)、特に高い吸引力を発揮しています。
各都市の10%通勤圏の面積や人口規模、さらに道県、地方圏の面積と人口を比較すると、福岡市は、人口規模が最も大きく、面積規模に対して人口が多く、最も高い人口密度となっています(図4)。
10%通勤圏人口は、福岡市が268万人あまりで、札幌市の241万人を上回り、仙台市、広島市より100万人以上多い規模です。人口密度で比較しても、市内のk㎡あたり人口は、福岡市が約4,700人で1,000人台の他の3都市を大きく上回っています。10%通勤圏の面積も、福岡市が4都市で最も狭く、k㎡あたり人口は福岡市だけが2,000人を超え、他の3都市は700人台です。
福岡市は、通勤圏を含む都市圏域が最もコンパクトで、その中で、多くの人が暮らし、働いています。東京・大阪・名古屋の三大都市圏と比較すると、規模は依然として差はありますが、これらに次ぐ地方の大都市圏では、頭一つ出た国内4番目の大都市圏域といえます。こうした人口、人材の豊かさは、後背人口として、福岡県や九州地方の人口規模、人口密度の大きさを背景としており、九州地方でみても、人口は約1,300万人と最大ながら面積は最小で、人口密度は他の地方を上回っています。
図4 4都市通勤圏と同県・地方圏の人口と面積
“コンパクトシティ”は密度の話 その中の充実度とバランスが重要
通勤先として、昼間人口比率が高いことは、日常的な都市の吸引力が高いことを示します。住む人だけでなく、働きに来る人も、昼間は福岡市で活動し、福岡市の経済に大いに貢献しています。多くの人が集まる都市は、必然的に、ビジネスなどで域外の人が訪れる機会も増え、交流の輪が広がるコアとなります。
同じ人口100万人以上の地方中心都市でも、福岡市は、後背人口の多さ、密度など、ポテンシャルは最も大きく、規模で言えば、例えば海外企業が日本へ進出する際の、国内「第4の選択肢」となります。
ただし、現代は規模の大きさ=都市の選択肢ではありません。世界的にQOL(Quality of Life=生活の質)を重視する傾向が強まり、海外赴任する際も、その都市のQOLを調査し、選定することも少なくありません。福岡市は、コンパクトなエリアに都市の利便性が集中しており、3大都市と比較すると、余裕のある空間で、余裕のある時間の過ごし方が可能な、バランスの取れた都市です。規模で選べば3大都市の中でも東京でしょう。しかし、都市の集積度とQOLのバランスでとらえれば、福岡市は、決して「第4の選択肢」に留まらず、さらに上位の選択肢にもなり得る都市といえます。
昼間は福岡市、夜間は周辺市
ても防災は重要
昨今全国的に大規模な自然災害が多発しています。災害は、市町の境界を越えて発生します。福岡都市圏に住む人で、自宅市町の避難所や避難経路を把握し、自宅に防災グッズを揃えていても、毎日仕事で福岡市に来ている人は、日中は言わば“福岡市民”であり、もし大きな災害が起きた場合、福岡市での避難や防災対応が求められます。福岡市内の企業等でも、さまざまな防災への備えが進んでいます。福岡都市圏では平成29年11月から消防共同指令センターの運用を開始するなど大規模災害時等への対応が強化されていますが、福岡市が、福岡都市圏の市町と日常的に連携や情報交換などを密にし、防災の面でも、結び付きを強めておくことが重要といえます。
情報戦略室 畠山
FGリアル 1
[Aug 17, 2022]
帰ってきた経済センサス~5年ぶりの事業所数と従業者数ついに
総務省令和3年経済センサス活動調査の速報値が発表されました。今回は、一部速報値のみの発表で、確定後に数値が変わる可能性もありますが、市町村別の事業所数や従業者数が判明するのは、平成28年経済センサス活動調査以来5年ぶりとなります。
福岡市の今
100万人近くが働く福岡市
令和3年経済センサス活動調査結果によると、福岡市の事業所数は73,223事業所、従業者数は952,085人です。従業者は「福岡市の事業所で従業する人」で、市外から通勤して来る人も含まれます。実に100万人近くの人が福岡市の事業所で従業しています。
産業別にみると、事業所数は「卸売業、小売業」「宿泊業、飲食サービス業」「医療、福祉」などが多く、従業者数は「卸売業、小売業」「宿泊業、飲食サービス業」「医療、福祉」「その他サービス業」など、いわゆる第3次産業(サービス業)関連が上位です(図1・図2)。
図1・図2
「人が生み出す価値」が支える福岡市の経済~21大都市中最も高い第3次産業比率~
では、産業別の比率を、国内の政令指定都市及び東京23区の21大都市で比較すると、事業所数、従業者数とも、福岡市は第3次産業比率が最も高く、いずれも9割前後を占めます。どの都市も第3次産業比率は高いものの、福岡市は特にその傾向が強く、従業者数は東京23区とともに9割を超えています。もちろん、農林漁業や製造業など、第3次産業以外で従業する人も多くいますが、大都市の中でも特に第3次産業が盛んな都市であることを示しています。福岡市は、古くから商業が盛んな都市として発展してきた歴史があり、今も、時代に合わせて産業が進化しながら、経済成長を続けているといえます(図3・図4)。
図3・図4
5年前との変化
5年前から従業者増4万人超~東京23区、大阪市に次ぐ増加~
今回の経済センサス活動調査結果は、平成28年以来5年ぶりです。その間には、コロナ禍もありました(今なお継続中)。5年前との比較は、コロナ前、コロナ後という見方もできます。
事業所数と従業者数の増減を大都市比較すると、多くの都市で事業所数が減少する中で、福岡市は、数少ない事業所数が増加した都市であると同時に、従業者数は4万人以上の増加で、これは東京23区と大阪市に次ぐ規模です。多くの従業者~働く人~が、福岡市に集中しつつあることがわかります(図5・図6)。
図5・図6
*令和3年経済センサス活動調査より対象抽出法が変更され、より幅広く把握されたことから、比較については参考値である。
*熊本市で事業所数が大幅増加したのは、前回調査(平成28年6月)が熊本地震(平成28年4月)直後で、多くの事業所が被災したものが、その後の復興等で増えたことが一因と考えられる。
より高付加価値な産業への変化~5年前から増えた産業~
この5年間で、産業別の事業所数や従業者数はどのように変化したのでしょうか。福岡市の産業別増減は、事業所数は「不動産業、物品賃貸業」「学術研究、専門・技術サービス業」「医療、福祉」、従業者数は「医療、福祉」「情報通信業」「その他サービス業」などで増加しました。一方、事業所数、従業者数とも上位の「卸売業、小売業」「宿泊業、飲食サービス業」はそれぞれ大きく減少しています。これらの産業は、コロナ禍が影響している可能性もあります。
この5年を経て、福岡市経済の産業構造は、第3次産業比率の高さは変わらないものの、その内容は時代の変化に合わせて、より今のニーズに沿ったものへ、新しい価値を生み出す産業の形へと変化しているようです。(図7・図8)
図7・図8
*令和3年経済センサス活動調査より対象抽出法が変更され、より幅広く把握されたことから、比較については参考値である。
“100万人力”の価値の創出
ようやく公表された令和3年経済センサス活動調査結果。速報値では、市町村別には事業所数と従業者数のみで、今後確定値公表のタイミングでさらに詳細な調査結果も公表されると思われます。
福岡市は、人口増加率が大都市で最も高い都市ですが(「FUKUOKA GROWTH2022」 P11)、従業者数の増加も東京や大阪に次ぐ規模で、地方都市としては最大です。多くの人が集まり、経済活動が盛んな勢いのある都市であることが、改めて示されました。
前回調査からの5年の間には、新型コロナウイルス感染拡大による大きな社会変化を経験し、経済活動にもさまざまな影響がもたらされました。速報値でも、産業別の増減など、その影響の一部を垣間見ることができます。
従前より、福岡市は、全国でも高い開業率にみられるようにスタートアップが盛んな都市として知られ、産業の新陳代謝が進んでいることが推察されましたが、今回の調査結果にみるように、確かに産業構造は変化の過程にあるようです。100万人近くの人の創造力が、進取の気性に富む経済活動を、これからも牽引していくものと期待されます。
あとがき
ようやく令和3年経済センサス活動調査の速報値によって、福岡市の事業所数や従業者数が明らかとなりました。統計を扱う人は、この5年間市町村別の数値がわからず、古い統計値や他の類似統計(雇用保険適用事業所数や被保険者数など)を代用してエビデンスとしたりしていたと思いますが、途中公表された「令和元年経済センサス基礎調査」の公表統計が限られた内容だったので、ようやく全体像が・・という感じがします。今後の経済センサスの基礎調査と活動調査の公表内容は、現在の棲み分けで実施されるのでしょう。
経済センサスも人口に関する調査を行う国勢調査も5年おきです。今の時代、5年で社会は大きく変わるので、その間の状況を、いかにリアルタイムで把握するかが重要になります。国の基幹統計は数年おきですが、毎年、四半期毎、毎月など、より短期間に公表される統計もあるので、それらをリアルタイムで追いながら補足したり、普段あまり目にしない情報なども含め、この“Fukuoka Growth リアル”から発信していこうと思います。
とはいえ、統計で数値化されたとき、それはもう過去の情報です。未来の統計は、よりリアルタイムに、まさに「今」の状況を、さまざまな技術を駆使して把握できるようになるでしょう。既に、センサー情報で通行者数などをリアルタイムに把握するようなことも広く実装されていますし、蓄積された膨大な情報をもとに、AIで「未来」を予測する動きも、今後ますます広がっていくと考えられます。
それも重要なことですが、数値にも価値を。統計は(ただの)数値に非(あら)ず。視点や読み込み方、見せ方で、よりクリアになる情報、背景を含んでいます。そういう気付きのきっかけを、ここで示していければと考えています。
数値で予測される福岡市の未来を、人の創造力で、より豊かにアップデートしていきましょう。
情報戦略室 畠山尚久