REPORT
刊行物・研究報告
コラム
2024.11.06
アジアンシティ・ディスカバリー
アジアンシティ・ディスカバリー
東アジア、東南アジア地域は、今も人口の急拡大が続き、1,000万人を超える人口のメガシティが数多く存在します。
一方で、福岡市は、市域人口が約165万人(推計人口2024年5月時点)、都市圏人口でも約265万人(同)と、規模の上ではこれらのメガシティとは大きな差があります。
しかし、今は、規模で都市を評価する時代ではなく、コンパクトな都市でも高い生活の質や利便性を有し、世界で存在感を示している都市もあり、メガシティより人口規模は小さくても、存在感があり、個性豊かな魅力を持つ都市は、急成長する東アジア・東南アジア地域にも、今後増加していくと考えられます。
一方、東アジア・東南アジア地域の都市情報は、首都やメガシティのものが中心で、それらに続く都市の情報はあまり目にする機会はなく、まだ知らない都市が数多くあることも事実です。
「アジアンシティ・ディスカバリー」では、数多ある東アジア・東南アジア地域の都市群から、福岡市同様、メガシティではない規模の、“ネクスト・シティ”とも言える都市の情報を収集し、福岡市との近似性や違い、福岡市との交流可能性などを「探索」していきます。
シリーズ02: アジアの同規模都市・個別情報1
福岡エリアと人口規模が近い40都市の個別情報
これまで紹介した、都市エリアの人口規模や人口密度が福岡エリアに近い40都市について、国・地域別に、個々の都市情報や統計からみた福岡市との共通点、類似性(人口規模・密度以外で)、各都市ランキングでの順位などを確認していきます。都市ランキングについては、以下の都市ランキング調査の最新結果から、対象都市の掲載があるもののみ紹介します。
主な都市ランキング(評価機関)
・Global Cities Index 2024(Oxford Economic)
・CITY BRAND BAROMETER 2023(Saffron)
・World’s Best Cities2024(Resonance Consultancy)
・Innovation Cities Index 2023(2ThinkNow)
・Quality of Living City Ranking 2023(Mercer)
・Global Liveability Index 2024(Economist ・EIU)
・Global Power City Index I2023(Mori Memorial Foundation)
・Monocle Quality of Life Survey2024
中国の各都市
まずは40都市のうち、24都市と最も多い中国の各都市から紹介します。
中国のエリアと各都市の分布は下図の通りです。
中国の都市エリア分布
東北エリア(黑龍江、吉林、遼寧)
②ハルビン市、③長春市
華北エリア(内モンゴル、北京、天津、河北、山西)
⑫フフホト市、⑭包頭市、①石家荘市、㉑唐山市、㉔邯鄲市
西北エリア(陝西、寧夏回族、甘粛、青海、新疆ウイグル)
⑤蘭州市、⑧銀川市、⑱西寧市
華東エリア(山東、江蘇、上海、浙江、福建、安徽、江西)
⑩シ博市、⑪崑山市、⑥張家港市、⑯紹興市、⑲慈谿市、⑳義烏市、㉒莆田市
華中エリア(河南、湖北、湖南)
⑮洛陽市
華南エリア(広東、広西チワン族、海南、香港、マカオ)
⑨珠海市、⑬汕頭市、⑰恵州市、㉓江門市、④南寧市、⑦海口市
西南エリア(重慶、貴州、四川、雲南、チベット)
*各都市の番号は都市一覧の番号です。
中国・東北エリアの2都市
今回は、中国・東北エリアの2都市「ハルビン市」と「長春市」を紹介します。
ハルビン市
出典:Google, TerraMetrics, photo by Fredrik Rubensson
https://www.flickr.com/photos/froderik/8373362290/in/photostream/
ハルビン市は、山脈に囲まれ市内には美しい松花江が流れる都市で、中国黒竜江省の省都です。中国有数の歴史のまちであるとともに、全国で最初に観光都市として国から指定を受けた市のひとつです。
夏が短く冬が長いハルビンは、「氷の町」とも呼ばれ、世界でも最大規模の氷雪祭りである「ハルビン国際氷雪祭り」や、雪と氷のイベント「氷雪大世界」が開催され、中国有数のスキー場も有しています。
公式サイト:https://www.harbin.gov.cn/ から
都市圏域・市の情報と福岡市の比較
(統計基本情報)
ハルビン市は、人口は微減傾向で、年齢構成は、15-64歳の割合が74.9%で高くなっています。
域内総生産の産業別構成は、第3次産業の割合が64.4%ですが、第2次産業も23.4%とやや高くなっています。
福岡市と比較すると、年齢構成は0-4歳人口の割合はやや低く、15⁻64歳人口の割合は10ポイント以上高く、65歳以上人口の割合は低くなっています。
域内総生産の産業構成は、第1次産業や第2次産業割合が高く、第3次産業割合は低くなっています。また、1人あたり生産額は福岡市より低くなっています。
訪問者数は、福岡市より4,300万人あまり多くなっています。
(福岡市との類似性)
人口構成の0-14歳割合以外は、福岡市との類似性はあまりみられません。
(世界の都市評価ランキング)
世界のさまざまな都市ランキングのうち、Global Cities Index2024(Oxford Economic)では1,000都市中586位、Innovation Cities Index 2023(2ThinkNow)では500都市中408位にランキングされており、いずれも福岡市よりも低くなっています。
長春市
Google, TerraMetrics 出典:https://www.istockphoto.com/
長春(チョウシュン)市は、吉林省の省都であり、中国東北エリアの中心都市の一つで、東北亜経済圏の重要都市です。歴史的に偽満州*の政治、文化、金融センターとして、数多くの偽満州時期の建物が保存されている。自動車産業(第一汽車など)が最大の製造業であり、交通関連産業、流通業、商業も盛んです。また、多くの大学や科学研究機関が立地する研究学園都市で、科学技術者も多数従事しています。
公式サイト:http://www.changchun.gov.cn/ から *中国の呼び方
都市圏域・市の情報と福岡市の比較
(統計基本情報)
長春市は、人口は微増傾向で、年齢構成は、15-64歳の割合が73.7%で高くなっています。
域内総生産の産業別構成は、第3次産業の割合が51.9%ですが、第2次産業も40.0%と高くなっています。
福岡市と比較すると、年齢構成は15⁻64歳人口の割合が10ポイント近く高く、65歳以上人口の割合は低くなっています。
域内総生産の産業構成は、特に第2次産業割合が高く、第1次産業もやや高くなっているのに対し、第3次産業割合は40ポイント近く低くなっています。また、1人あたり生産額は福岡市より低くなっています。
訪問者数は、福岡市より4,400万人あまり多くなっています。
(福岡市との類似性)
人口構成の0-14歳割合以外は、福岡市との類似性はあまりみられません。
(世界の都市評価ランキング)
世界のさまざまな都市ランキングのうち、Global Cities Index2024(Oxford Economic)では1,000都市中712位、Innovation Cities Index 2023(2ThinkNow)では500都市中441位にランキングされており、いずれも福岡市よりも低くなっています。
次回は、中国華北エリアの5都市「フフホト市」「包頭(パオトウ)市」「石家荘(セッカソウ)市」「唐山(トウザン)市」「邯鄲(カンタン)市」を紹介します。
シリーズ01: アジアのまだ知らない都市群
1.収集対象都市の抽出
①行政境界によらない「都市エリア」での比較
国や地域によって、「市」の概念が異なり、行政境界による「市」の比較では、面積規模など比較対象として適当でない場合もあることから、ここでは、世界990の都市圏域ごとの人口をまとめた統計報告「Demographia World Urban Areas」(DEMOGRAPHIA)を使用し、同報告の定義による東アジア・東南アジア地域の都市エリアから抽出しました。
同報告書の「都市エリアの定義」は、「連続した、またはほとんど連続した既成市街地」とされ、建物の連続性などをもとにしており、市町村などの境界線とは異なり、より都市エリアとしての実体的なまとまりに近いものです。
同報告書における「福岡都市エリア」の人口は 2,368,000人(2023年)で、行政区分による「福岡都市圏」の人口264.2万人(同推計人口)とは異なります。
なお、本調査の性質上、福岡都市圏域以外の国内都市エリアは、調査対象から除外しました。
*各都市エリアは、実際の行政境界による市域を越える場合もあれば、行政境界の市域の方が都市エリアを越え大きな場合もあります。
②人口規模・人口密度からみた“ネクスト・シティ”選定
東アジア・東南アジア地域の、“ネクスト・シティ”の情報収集の対象を抽出するために、第一段階として、まずは都市を形成する最もわかりやすい要素として、人口規模・集積状況から選定を行います。
メガシティではなく、福岡市に近い規模の集積状況であることを条件とし、『「第3極」の都市』と同水準の人口規模150万人~400万人の都市エリアを選定しました。
東アジア・東南アジア地域で、人口1,000万人以上のメガ・シティは18都市あり、400万人以上になると50都市にも及びます。一方で、150万人~400万人の都市エリアは、45都市が該当しました。
ただし、人口規模は近似でも、都市エリアが広大で、人口密度が低い都市は性質が異なるため、k㎡あたり人口2,000人未満を除外しました(参考:福岡市4,695人/k㎡)。
この結果、調査対象として、次表の40都市を選定しました。国・地域別の内訳は、中国が24都市と最も多く、次いでインドネシアが5都市などとなっています。
該当都市一覧は以下の通りです。
図表1 東アジア・東南アジアの福岡市に人口規模が近い都市エリア一覧
図表2 各都市エリアの位置
2.抽出40都市の基本情報
抽出した都市の基本情報として、都市エリア中心市の人口(行政境界による市人口)、人口増加率(同・1年あたり)、域内総生産額(同・GRP)は以下の通りです。
①中心市(行政境界)人口と人口増加率
Demographia World Urban Areasの都市エリア定義が、行政境界によらない市街地の集積地域のため、市域境界が都市圏域を越える都市もあり、その分市の人口規模ではメガシティ規模になるケースもあります。特に、中国の多くの都市は、行政境界の市域人口が、都市エリア人口を大きく上回る大規模な市となっています。
人口増加率は、中国各都市はほとんどが増加傾向であるのに対し、韓国やインドネシアの都市は減少しています。
図表3 40都市の中心市(行政境界)の人口
図表4 40都市の中心市(行政境界)の人口増加率(1年あたり)
②市内総生産(City’s Gross Regional Product)
各都市エリア中心市の市内総生産(USドル換算)は、中国の大規模な都市や台湾の都市では、市内総生産が1000億ドルを超える都市も多くみられるのに対し、福岡市は約700億ドル(2020年度)で、概ね中位の規模です。また、東南アジアの都市は、市内総生産額は低くなっています。
一方、市域人口で除した1人あたりGRPは、福岡市は約43,000ドル(2020年レート)で、台湾2都市に次ぐ高さとなっています。
図表5 市内総生産 図表6 市民一人当たりGRP
Source:各都市/Each City
ここまで、人口規模で抽出した都市エリア人口が福岡市に近い40都市の人口、GRPをみてきましたが、市域境界の人口が大きかったり、経済活動規模が小さかったり、必ずしも福岡市と比較することが適当でない都市エリアもあります。
今後は、各都市の個別の概要を紹介しながら、福岡市との類似性や比較の妥当性などをみていく予定です。