Fukuoka Growth 2017-2018
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2017.11.10

Fukuoka Growth 2017-2018

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ご挨拶
福岡アジア都市研究所情報戦略室は、福岡市の成長可能性をデータで示す「Fukuoka Growth」を2013年度より隔年で配信してきました。
今年度は、いま世界で都市の成長をもたらす最も重要な要素として注目されている「イノベーション」をキーワードに、最新のファクト分析に基づきながら、福岡の成長可能性を検証していきます。
本配信によって、福岡市における政策やビジネスのみならず、皆さまの日々の生活へのヒントをご提供できればと考えています。
公益財団法人福岡アジア都市研究所
情報戦略室長 久保隆行

2017年6月~2018年3月にウェブ上で発信した『Fukuoka Growth』シリーズは、以下よりお読みいただけます。
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001. 福岡市の地域特性とチャレンジ

福岡市は日本の人口約1%圏域
初回はまず、福岡市の地域特性をデータに基づきながらイメージしていきましょう。
ご覧のとおり、福岡市の日本全国に占める面積は、0.1%に過ぎません。人口もたったの1.2%です。日本全国の0.1%という小さな市域ですが、そこにはその10倍を超える1.2%の人口が集中しています。それでもなお、福岡市は日本全国からみればごく小さな人口圏域に過ぎません。では、その他の指標では福岡市は全国のどのくらいのシェアを占めているのでしょうか。

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出所:[面積 ]全国都道府県市区町村別面積調(2016),[人口 ]国勢調査(総務省統計局)(2016)

福岡市の地域特性をイメージする
福岡市の面積・人口を含め、社会、経済の各分野における19項目からなるQuick Factsを、全国の数値とともに整理しました。(表1)。
全国では面積と人口ではほんの少ししかシェアを占めていない福岡市ですが、その他の指標の多くは、より大きなシェアを占めていることがわかります。人口シェアの1.2%よりも高いシェアを占める指標はすなわち、福岡市の得意な分野であり、それらが福岡地域の特性を示しています。

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若い人たちの活気があふれる都市
福岡市は学生の比率が高いことが特徴です。全国で、大学生(2.5%)、短期大学生(3.7%)、大学院生(3.0%)、専修学校生(4.8%)のシェアを占めています。福岡市の学生比率は、京都市、東京23区に次いで高いのですが(Fukuoka Growth 2016, p.35)、これは九州各県から多くの学生が福岡市に集まってきていることが背景にあります。学生を中心とした若い人たちは、イノベーションを生み出すための斬新なアイデアの宝庫となります。
外国人数、世帯数、出生数の全国シェアも、人口シェアを上回っています。外国人と子育て世代が多いことも、都市の活性化に寄与しています。これらのデータから、福岡市は、若い人たちを惹きつける魅力を持ち、活気にあふれた都市であることがうかがえます。

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アジアの交流拠点都市
福岡市で突出して全国に占めるシェアが高いのは入国外国人数(11.1%)です。福岡市はアジアとの地理的近接性を有し、人の移動や貿易を通じてアジアとの交流を深めてきました。近年では、世界的な観光客数増加の潮流に乗って、アジア各国からの観光客数は大幅に増加しています。博多港への外国船社のクルーズ船寄港回数は、国内の他の港よりも大幅に上回っています(「福岡のグローバル・ネットワーク」,p.43)。
クルーズ船の増加に対応した博多港の整備、福岡空港へのLCC路線の度重なる開設など、インバウンドを積極的に取り込んだ結果、福岡市からの入国外国人数は、全国の約1割を占めるまでになりました。2つの港からの入国者は、韓国、台湾、中国、香港の順に多く、アジア地域のウェイトが極めて高くなっています(福岡市観光統計)。
福岡市はアジアの交流拠点として役割を高めているとともに、インバウンドを惹きつけるグローバルな都市としてさらに進化中です。

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国際的な商業都市
経済指標では、製造業出荷額を除く指標はすべて人口シェアを上回っています。貿易額(輸出3.5%、輸入2.0%)と卸売販売額(2.8%)はとりわけ高いシェアを占めています。
福岡市の産業においては、卸売業・小売業を筆頭とした第3次産業従業者数の比率は、市内全従業者数の約9割を占めています(Fukuoka Growth 2016, p.28)。人口シェアよりも従業者数シェアのほうが高いことからも、福岡市の商業都市としての側面をうかがうことができます。
さらに、福岡市の2015年の開業率は7.04%であり、全国の開業率5.77%を大きく上回っています。開業率の高さは、福岡市のビジネスの新陳代謝の活発さを表しています。
福岡地域は歴史において、地理的な特性を活かしながらアジア諸国との交易を進めてきました。現代においても、福岡空港と博多港を起点とした貿易は、福岡市の国際的な商業都市としての特性を象徴しています。
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福岡市の成長のダイナミズムをみる
福岡市には、ここまできてきたような地域特性があることがわかりました。
それでは今、福岡市ではどのような分野が成長しているのでしょうか?
福岡市の成長のダイナミズムは、各指標の近年の伸び率によって把握することができます(表2)。福岡市と全国の伸び率を比較すると、17項目において福岡市が全国を上回っています。国内において、福岡市は成長のダイナミズムの波に乗っていることが明らかになります。

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人口指標にみる福岡市の成長のかげり
福岡市の過去5年間の人口増加率は、東京23区・政令指定都市のなかで最も高い、5.1%を記録しました。さらに、世帯数は、人口増加率を上回るペースで増えています。しかし、世帯数の増加は、主に単身世帯の増加によると考えられます。
学生の数では、福岡市は全国での伸び率・減少率を上回っているものの、大学院生数、短期大学生数はマイナスになっています。日本全国での少子高齢化の影響が福岡にも迫っていることを予感させられます。
人口指標のダイナミズムをみると、福岡市の今後の成長にかげりが出る可能性がうかがえます。その一方で、出生数は全国ではマイナス5.6%であったのに対して、福岡市では僅かですが0.4%上昇しています。子育てをしながら働きやすい都市としての一層の成長も求められています。

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経済指標にみる福岡市の成長の勢い
経済指標においては、総生産額(名目)は 2010年から2014年にかけて6.7%増加し、全国値を大幅に上回っています。
卸売業販売額は全国値を下回ったものの、小売業販売額は11.9%増となり、全国の6.4%増を上回りました。事業所数(7.9%増)および従業者数(4.3%増)も全国値を大幅に上回る伸び率を示しました。
2011年から2015年にかけての開業率の伸びでは福岡市は全国値を下回りましたが、開業率の数値では全国値を上回り続けています。事業や雇用が新たに生まれ、福岡市の経済は明らかに成長していることがわかります。

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国際指標にみる福岡市の成長の要因
福岡市には、アジアを中心に様々な国から人材が集まってきています。福岡市の5年間の在住外国人数の伸び率は34.8%と、全国(11.7%)を大幅に上回る伸びを見せました。福岡市に長期的に滞在する外国人の増加は、人口と市内総生産の増加に寄与しているといえそうです。
入国外国人数の伸びは、福岡市に短期的に滞在する外国人の増加を意味しています。これらの人々の増加は、福岡市での小売販売額を推し上げていると思われます。
福岡市の貿易額の伸びも、福岡市の経済成長と相関しています。製造業の比率が極めて低い福岡市であっても、製造業出荷額が伸びているように、付加価値の高い製品を海外に輸出することによって、地域に外貨をもたらしています。

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経済計算においては、外国人の国内での消費も「輸出」に計上されます。福岡市の経済成長を今後も持続するためには、付加価値の高いサービスを「イノベーション」によって創出しつつ、「輸出」していく取り組みが重要となることが明らかとなります。

以上、福岡市の地域特性がイメージできたでしょうか?
次回以降は、福岡市でダイナミックに成長している個別のテーマに着目しながら、福岡市の「イノベーション」創出に向けたチャレンジを追っていきます。

テキスト:情報戦略室長 久保隆行

002. 福岡市のシェアリング・エコノミー

 シェアリングがもたらす都市のイノベーション
シェアリングエコノミーの発展度合いは、都市のイノベーションを計る重要なものさしとなります。なぜなら、IoTやAI技術の進化により、高度に効率化された近未来の世界では、シェアリングエコノミーが社会基盤の一つになるからです。
今回は、福岡市でのシェアリングエコノミーの実態について、さまざまな切り口から分析することによって、福岡市でのさらなるイノベーション創出の可能性について考えていきます。

最も基礎的なシェアリングアイテムとしての住宅
私たちの生活の中に既に存在しているシェアリングエコノミーとして、住宅を挙げることができます。人間の最も基礎的な「住む」という行為において、どの程度シェアリングが進んでいるのか、ここでは主要都市の持ち家比率の比較をもとに検証します。
福岡市の持ち家比率は、主要都市の中で飛び抜けて低いことが分かります。福岡市の居住者の転出入の多さを裏付けているともいえます。福岡市での空間を貸し借りする文化は、他都市と比較して強く存在してきたことが分かります。

*以下図表は、首都圏の都市を除く主要大都市比較
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自動車のシェアリングでは地方レベルの福岡
パーソナルモビリティにおいて、自動車は近代以降主要なアイテムとして発展してきました。自家用車、すなわちマイカーの世帯当たりの台数を示すマイカー比率を用いて、モビリティ面でのシェアリングの比較を試みます。
福岡市の世帯あたりのマイカー保有台数は、最も少ない東京23区の約2倍となっており、その他の地方圏の都市とともに高い数値となっています。この結果は、公共交通機関の充実度や、通勤にマイカーを用いる慣習の根強さなども影響しているかもしれません。自動車によるモビリティについては、福岡市でのシェア文化はまだ途上のように思われます。
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タイムズカープラスの意外な多さ
福岡市の自動車モビリティでのシェアリングは、他都市と比較して本当に遅れているのでしょうか?ここでは、カーシェアリング業界において全国でシェアトップを誇るタイムズカープラスの自動車配置台数を都市別に見ていきます。
福岡市は、人口あたりでみても市街化区域面積あたりでみても、大阪市と東京23区に次いで配置台数が多いことが分かります。マイカー比率だけを見ると低いと思われた福岡市での自動車のシェア文化は、意外なことに発達しているのです。大学生を含む若者の比率が高いことが要因している可能性があります。
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シェアリング文化の象徴、Airbnbのポテンシャル
日本政府は昨今、ようやく民泊に関する新法を制定しました。これによって、一般住宅での民泊営業が可能になると同時に、旅館業法上の許可や年間営業日数の上限が制度化されました。福岡市は、民泊に関する条例を制定(条件付きで営業日数の制限の緩和やフロント設置義務の緩和など)して民泊を支援していますが、その文化は市民に受け入れられているのでしょうか。
主要都市でのAirbnbの登録件数を比較すると、絶対数では福岡市の登録件数は多いとはいえません。次に、Airbnb登録件数を各都市での旅館業者数とともに比較します。Airbnbは、既存宿泊施設のキャパシティ不足によって発生する市場を取り込んでいる側面が強いといえます。旅館業者1件あたりのAirbnb登録件数を比較すると、福岡市は東京23区、大阪市に次いで高いことが分かります。これは、福岡市の宿泊シェアリングは、東京、大阪に次ぐ比率でビジネス化されていることを物語っています。Airbnbは福岡市内に、日本で初めてのホームシェアリングラボを設立しました。福岡市のポテンシャルの高さを見込んでいるに違いありません。
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自転車のモビリティ利用で優位な福岡市
次に取り上げたいのが、都市の回遊性を担保する最も身近な交通手段である自転車のシェアです。福岡市は、通勤・通学の手段で自転車利用の比率が主要都市で最も高いというデータ(Fukuoka Growth 2013-2014, URC, p.73)があります。福岡市は、当初は放置自転車の問題解決として駐輪場整備に取り組んできました(福岡市の駐輪場整備の実績)。現在では、駐輪場のさらなる整備に加え、自転車通行空間の整備、地下鉄と駐輪場のセット割引定期券「乗っチャリ」を創設するなど、自転車をさらに利用しやすい街づくりが進められています。

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シェアリングエコノミーの新星、Mobikeの福岡上陸
2017年6月、中国を起点に現在は世界各地で自転車シェアリング事業を展開し、ユニコーン企業へと急成長したMobike社は、福岡市に日本で初めての拠点をつくりました。これもシェア文化の普及度と自転車使用率が他都市と比べて高い福岡の可能性に賭けたものといえるでしょう。
Mobike社は、自らを第4世代のシェアサイクルと称しています。これまでのコミュニティサイクル(第3世代)は、ポート(指定された置き場)式がゆえに利便性に限度があり、テクノロジーとしても先進性はありませんでした。しかし、Mobikeはポートの設置を必要とせず(駐輪可能な場所なら乗り捨て可)、更に車体にはGPSとIoT通信機能を搭載し、決済から解錠・施錠、トラッキングまで全てが車体とアプリで完結するようになっています。決済には中国の2大電子通貨のアリペイとWeChatペイが使用でき、ユーザーはアプリ上での簡易な事前登録のみで即サービスを利用できます。

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また、Mobike社の公式白書によると、5km以下の移動の場合、マイカー(車)を使った移動よりも、モバイクと公共交通機関を組み合わせた移動のほうが、92.9%の割合で移動時間を短縮できたという結果も出ています(北京市内)。全国的にもコンパクトに都心機能が集約している点で定評がある福岡においては、ほとんどの市内の移動が5km以内に収まります。さらに、駐輪場の整備が進んでいる福岡市は、シェアサイクル事業に最も適した都市として、東京や大阪に先駆けて選ばれたと考えられます。

福岡市のシェアリングエコノミー拡大への課題
ここまで福岡市のシェアリングエコノミーに関する実態を考察した結果、他都市と比較して福岡市はシェアリングエコノミーとの親和性が高い側面を多く確認できました。しかし、日本社会は未だシェアリングエコノミーの普及に向けた課題を多く抱えています。例えば、中国の現状を見てもわかる通り、シェア文化の発展にはスマートフォンとそれに紐付いた電子決済の普及が大きな条件となります。日本では両者の融合は進んでおらず、スマートフォンに搭載されたアプリと決済の即時性によるイノベーションが進みにくい状態となっているのです。
このような課題の解決に向けて、福岡市が先行して取り組むことができれば、シェアリングエコノミーを推進し、都市イノベーションを進展させることができるはずです。たとえば、福岡地域圏内で発行されているIC決済カードを完全に一本化し、その利用に公共・民間ともに共通の割引やプレミアムをつければ、利用率を現在よりも飛躍的に上昇させることは可能となるでしょう。これをスマートフォンと一体化すれば、シェアリングビジネスでの地域通貨として活発に利用されると考えられます。
英国では今年はじめて、現金での決済額が全決済額の半分を下回りました。英国はMobike社がアジア圏外で最初に進出した国です。スウェーデンのように2030年に現金をすべてなくすという目標を立てる国も出てきました。世界ではキャッシュレス化が進んでいない国や地域は少なくなりはじめています。それに伴い、シェアリングエコノミーも進展しているようです。この時代の流れに、福岡市が上手く乗ることができるかどうかが問われています。

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テキスト:研究員 滝本 一馬
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003. 福岡市の女性の活躍

日本国内では、2015年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が国会で成立しました。女性の活躍という言葉は、目にしない日がないほどであり、国内での関心の高さが窺えます。
福岡でも、今年9月9日に福岡国際女性シンポジウム(福岡県主催)が開催され、女性が活躍できる社会づくりに向けてのメッセージが発信されました。シンポジウムには女性や男性、さらに中学生から高齢の方にいたるまで幅広い年齢層の参加者が見られました。「女性の活躍」というのは、いまや性別や年齢を問わずに関心を集めているテーマであることがわかります。
そこで、Fukuoka Growth第3回目の今回は、福岡市における女性の活躍をキーワードに、女性の労働参加率の現状、および今後の女性活躍の推進に向けた官民の連携について考察します。
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Photo: Provided by the City of Fukuoka.
日本国内で加速する、女性の活躍推進に向けた取り組み
日本国内では、1985年の男女雇用機会均等法制定以降、女性の活躍についての議論が重ねられています(内閣府男女共同参画局)。とくに、2015年以降は、女性の働き方に関る取り組みに加えて、女性人材の育成や暮らしにいたるまで、広範な分野における取り組みが加速化しています。2015年8月に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」)の国会成立、2015年12月の「第4次男女共同参画基本計画」策定、2016年5月の「女性活躍加速のための重点方針2016」策定が次々に行われ、女性の活躍を推進する機運がますます高まっています。
一連の法律や方針の内容を見ていくと、一言に「女性の活躍」と言っても、家事・育児における男女の役割分担、女性リーダーの育成、出産・子育て支援など、多くの論点があることがわかります。また、各々の論点は密接に関連しており、多角的検討する必要があります。
ここ福岡市について考える場合、女性の生産年齢人口(15歳~64歳)が男性を上回り、その傾向が続いていることから、女性の労働参加を入り口として、女性の活躍についての考察を進めていきましょう。
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進学や就職を機に転入する女性が多い福岡市
まず、福岡市の人口構成について整理します。福岡市は女性の人口が多い都市ですが、その背景に、九州地域一帯から福岡市へ転入する女性が多いことが挙げられます(『発展する都市・衰退する都市 p.87』)。福岡市内外の転出入数を男女別かつ年齢別に見てみましょう。グラフで示しているとおり、男女ともに10代後半~20代前半(18歳~23歳)は大幅な転入超過となっており、女性の数は男性の数を上回っています。福岡市には、専門学校、短期大学や大学への進学、高校や専門学校卒業後の就職を機に多くの若者が転入してきているのです。また、20代後半(24歳~27歳)では、女性が転入超過であるのに対して、男性は転出超過になっています。大学卒業後に、男性は福岡市外で就職する人が多いのに対し、女性の場合は就職のために市外からやってくる人がいることがわかります。
30代になると、男女ともに転出超過になるものの、転入数に比べると転出の数は多くありません。進学や就職のために福岡市に転入してきた女性の多くが、そのまま福岡市に住み続けている構造が明らかになります。
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国際レベルでは途上にある福岡市の女性の労働参加率
福岡市には、生産年齢人口を中心に多くの女性が住んでいます。そこで、働く女性に注目すると、福岡市の女性の労働参加率(労働力率)は53.3%と日本全国の50.0%に比べて3.3ポイント高くなっています(「平成27年国勢調査」より算出)。しかしながら、福岡市の数値は、OECD諸国35か国の女性の労働参加率と比較すると、決して高いとはいえません。労働参加率が最も高いアイスランド(79.8%)に比べると26.5%も開きがあり、順位でいえば福岡市は20位という結果になっています。
国際レベルで見れば、福岡市は女性が働きやすく活躍できる都市としては、まだ途上にあるといえます。ですが、福岡市の女性の生産年齢人口数からすれば、潜在的には多くの女性人材がいると考えられます。こうした女性人材を活かすための方法が求められているのです。
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アジアの中でも女性の労働参加率が高い中国
本稿の冒頭で紹介した福岡国際女性シンポジウムでは、海外でも女性は家事や育児に多くの時間を費やしており、仕事との両立が難しい点が指摘されました。女性の労働参加は日本国内だけにとどまらずに、海外においても関心が高いテーマなのです。
そこで海外の事例に目を向けてみましょう。とくに、福岡市と経済や人的交流が盛んなアジアに着目します。アジアの中では、中国における女性の労働参加率の高さが突出しています。ILOの推計によれば、2016年の中国の女性の労働参加率は63.3%です(ILO STAT)。この数値は、前節のグラフで上位を占めたアイスランド、スウェーデン、ニュージーランドに次いで、4番目に高い値となっています。なぜ中国における女性の労働参加率は、OECD諸国に遜色ないほど高い割合になっているのでしょうか。
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女性の労働参加を積極的に支援する中国企業の事例
中国のジェンダーに関する先行研究(*1)によれば、中国では、祖父母や親族による育児支援が得られている実例が多いという特徴があります。従来、こうした家族システムが、中国における女性の労働参加を支えてきたのです。
近年では、企業自体が働く女性を支援する動きも盛んになってきました。急成長を遂げている中国企業(*2)のうち、例えば携程(Ctrip)や、京東集団(JD.com)などの大企業は、職場に託児所を開設し、社員が安心して子供を預けて仕事に取り組め、一緒に出勤できる環境を整備しました(携程:親民晩報、京東集団:人民網)。滴滴(DiDi)は、夏休み中に託児所を開設し、学校の長期休暇中についても社員をサポートする体制を整えています(中国網
こうした事例は、女性が働きやすく、子供を育てやすい環境づくりのためには、民間の企業も重要なプレーヤーであることを示しています。
*1宮坂靖子(2007)「中国の育児―ジェンダーと親族ネットワークを中心に―」(落合恵美子・山根真理・宮坂靖子編『アジアの家族とジェンダー』勁草書房、pp.100-120)。
*2中国企業:京東集団(JD.com)は、中国第2位のインターネット通信販売企業。携程(Ctrip)は中国最大のオンライン旅行サイトを運営する総合旅行会社。滴滴(DiDi)は中国の大手ライドシェア企業。
*中国企業の事例については、本研究所インターンの賈春暉氏のレポートを参照。
福岡市における女性活躍の推進に向けて
福岡市では、2016年3月に「男女共同参画基本計画(第3次)」が策定されました。誰もが思いやりをもちすべての人にやさしいまち「ユニバーサル都市・福岡」の実現に向けた、男女共同参画社会への取り組みが進められています。
さらに今後は、こうした公的な施策に加えて、前節の中国の事例のように、企業が働く女性を支援する取り組みを展開していく可能性は高いといえます。その際、官と民が手を組むことで、一層強固な支援策となるでしょう。従来、福岡市はスタートアップ支援にみられるように、市の重要な施策に対して産官学連携を通じて取り組んできました(『発展する都市・衰退する都市』p.68)。つまり、福岡市には、都市の課題に対して、官民そして学が一体となって取り組むという基盤が既に整っているのです。各プレーヤーが個々に支援策を実施するにとどまらずに連携し合うことで、福岡市ならではの女性の活躍を推進する方法が生まれていくと考えられます。
女性の生活や働きやすさへの支援策が一つ実現するだけでも、女性の数の分だけ効果があり、何倍ものインパクトとなって都市の活性化を促します。福岡市の成長のためにも、今後の「女性が活躍できる都市」に向けての官民の取り組みが期待されます。
テキスト:研究員 中村 由美

004. 福岡市のスタートアップ

スタートアップ活動が盛んな都市は、多くのイノベーションを創出しています。スタートアップは、異なる分野の人々が協働し、さまざまなアイデアを掛け合わせ、イノベーションを創出することによって形成されます。新しい事業を立ち上げることは、スタートアップの第一歩となります。
2016年度に福岡市で新しく設立された事業所数※は、過去最多の3,296件となりました。既存の事業所数に占める新規事業所数の割合を示す開業率についても、これまでで最高の7.65%となりました。新しい事業が次々と誕生していることと連動して、福岡市の経済も順調に伸びています。なぜ、福岡市の開業率は上昇してきたのでしょうか?今回は、スタートアップをテーマに、福岡市におけるイノベーション創出に向けた今後の課題を探ります。
※雇用保険事業における一年度当たりの保険関係新規成立事業所数(雇用保険新規適用事業所数)

新境地に入った福岡市の新規事業所数・開業率
まず、これまでの福岡市の雇用保険新規適用事業所数および開業率の推移を示します。2006年度以降、福岡市の新規適用事業所数は、2,000件台で着実に増加してきましたが、2016年度には大きな伸びを見せて3,000件の大台を超えました。
開業率は2013年度以降7%台で推移してきましたが、2016年度には前年度から0.64ポイント大きく伸びて7.65%を達成しました。福岡市の開業率は、全国平均の5.6%に比べても、これまでにない極めて高い割合を示しています(厚生労働省のデータより算出)。

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多様・多才なプレーヤーに溢れた福岡市
福岡市の開業率の高さは、新たな事業にチャレンジする気概に満ちた人材が豊富であることを示しています。シリコンバレーでは、スタートアップとは、社会におけるさまざまな課題の解決を目指すビジネスのことを指します。これまでの常識を覆すような新しいアイデアを、事業として成立させるためには、変化を恐れず、多様な価値観を受け容れることができるプレーヤーが必須となります。
福岡市は、日本の大都市の中で最も人材の流動性が高い都市です(『発展する都市/衰退する都市』,p.89)。毎年、多数の人材が福岡市に転出入することによって、多様な人材のマッチングが進んできました。さらに、留学生をはじめとする外国人人口の多さも福岡市の特徴です(『発展する都市/衰退する都市』,pp.84-85)。異なる文化や価値観を持つ多様な人材が集い、個々の多才な能力がうまく組み合わされれば、斬新なアイデアが生まれやすくなり、クリエイティブな事業は創出されやすくなります。
野村総合研究所「成長可能性都市ランキング」では、福岡市は「成長ポテンシャルのある都市」第1位(国内100都市中)に選ばれています。ここでは、福岡市の多様性に対する寛容度の高さや、創業支援の充実が評価されています。

2012年「スタートアップ都市・ふくおか」宣言にはじまる援護射撃
スタートアップにかかわる人材が豊富であることを強みに、福岡市ではスタートアップを支援する政策が実施されてきました。2012年「スタートアップ都市・ふくおか」宣言を経て、福岡市は2014年にグローバル創業・雇用創出特区に認定され、創業者育成補助金(福岡市ステップアップ助成事業)、スタートアップカフェ(創業支援施設)事業などが進められてきました。2017年4月には、新たなスタートアップのプラットフォームとして、官民共働型スタートアップ支援施設のFukuoka Growth Nextが開設しました。
さらに、2015年12月からは起業する外国人を対象とした「スタートアップビザ(外国人創業活動促進事業)」、今年度からは、福岡市内において医療分野や先進的なIT分野などで革新的な事業を実施する設立5年間以内の法人を対象とした「スタートアップ法人減税」が実施されています。これらは国内初の取り組みであり、福岡市におけるスタートアップの活発化につながるかどうか、注目が集まっています。

写真:Fukuoka Growth Nextと施設内福岡市スタートアップカフェ Photo: Fukuoka Growth Next, Fukuoka City Startup Cafe

写真:Fukuoka Growth Nextと施設内福岡市スタートアップカフェ 

スタートアップとともに活性化する福岡市経済
スタートアップ活動が順調であるとともに、福岡市の経済も活気づいています。新規事業が生まれれば、その新規事業による生産額の増加、雇用創出、消費拡大といった波及効果が現れるはずです。
福岡市の経済状況を概観すると、2012年から2014年の市内実質総生産額は、66,641億円から 68,664億円へと、3.0%増加しました。全国の伸び率1.0%に比べても、福岡市の経済は好調な伸びを示しています。
産業別の伸び率で見ると、従来、福岡市が強みを持つ卸売業はマイナス12.3%と大幅に下落したものの、小売業は8.4%と堅調な伸びを示しました。サービス業も3.3%と伸びています。そのほかの産業も概ね上昇しており、産業全体の中でも生産額の多い不動産業は6.1%増、情報通信業は5.2%増と高い伸び率を示しました。

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スタートアップがスタートアップを生む社会構造へ
スタートアップの好調さは、雇用面にも良い影響を及ぼしています。福岡市では、新規事業所数が増加してきただけではなく、雇用数も右肩上がりを維持しています。図は、2012年から2016年までの雇用保険適用事業所数と被保険者数の推移です。5年間で雇用保険適用事業所数は12.9%増加し、被保険者数は10.1%増加しています。
福岡市の過去5年間の人口増加率は、全国大都市第一位となる5.1%を記録しました。福岡市へ向かう人材の流れは、働く場所が増えることによって、働き盛り世代を中心に進んできました。福岡市のスタートアップは、市外から多くの人材を呼び込み、これらの人材によって、次なるスタートアップが誕生していく、という好循環が現れつつあります。

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大幅に進展した女性の労働市場参加
雇用数の増加について、男女別、産業別にさらに詳しく見ていきましょう。経済センサスのデータにもとづいて、男女それぞれで2012年と2016年の従業者数を比較すると、男性が4.8%増、女性が8.0%増となりました。4年間で、女性の雇用は、男性と比較して2倍近いペースで増加しています。※
一定の従業者数を母数とする産業を見ると、卸売業・小売業および宿泊業・飲食サービス業では男女ともに雇用が増加しています。医療・福祉業についても男女ともに雇用が増加していますが、女性の雇用増加が際立っています。また、総従業者数は多くはないものの、伸び率で見ると、学術研究・専門・技術サービス業での女性の増加率は男性を上回っています(男性24.9%、女性31.7%増)。
イノベーション創出の宝庫ともいえる医療や技術サービス分野において、女性の雇用は高い伸び率を示しています。今後、より多くの女性が新たなプレーヤーとして加わることによって、福岡市のスタートアップ活動はさらに活発化するにちがいありません。
※2016年の値は、「H28経済センサス活動調査(速報値)」(以下、2つの図表も同じ)

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新たなスタートアップ・プレーヤーとしての女性への期待
近年、日本国内では、女性が活躍できる社会のあり方について、頻繁に議論が重ねられています(内閣府男女共同参画局「女性の活躍促進」)。2016年の雇用保険被保険者数の男女比を見ると、福岡市は女性の割合が46.1%と、全国平均の42.1%よりも4ポイント高くなっています。このように、働く女性の割合が高い福岡市は、女性が活躍できる都市として主要な役割を果たすことが期待されます。
前節で示したように、福岡市では、イノベーティブな産業に従事する女性の数が増加傾向にあります。前節のグラフでは、学術研究・専門・技術サービス業の31.7%増に加え、情報通信業では15.3%増となっています。多様・多才なプレーヤーに、女性が加わることによって、女性ならではの発想や経験が活かされ、新たなスタートアップが生まれる可能性はさらに高まるはずです。今後の福岡市のイノベーション創出に向けて、いかに女性人材を活かせるかは、最も重要な課題の一つであるといえます。

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福岡市でのイノベーションのさらなる創出に向けた課題
以上、福岡市で堅調なスタートアップ活動の要因と、それに連動した福岡市の経済の好調さを見た上で、女性人材のさらなる活躍への期待について述べました。
Fukuoka Growth 2017-2018 第1回でも示したように、福岡市はいま、成長のダイナミズムの波に乗っています。市内総生産額は雇用とともに増加し、福岡市の基盤産業は明らかに成長しています。しかし、情報通信業や学術研究・専門・技術サービス業といったイノベーションに直結する産業は、成長傾向にあるものの、未だ発展途上であるともいえます。
今後、福岡市におけるイノベーションのさらなる創出に向けて、イノベーティブな産業におけるスタートアップの促進は欠かすことができません。そのためには、スタートアップ支援に加え、女性をはじめとする多様な人材が働きやすい環境づくりが必須となります。Fukuoka Growth 2017-2018 第3回でも述べましたが、福岡市の女性の労働参加率(労働力率)は53.3%であり、全国の50.0%に比べ3.3ポイント高いものの、OECD諸国と比較すると、決して高い数値であるとはいえません。福岡市には、まだ多くの女性人材が潜んでおり、こうした人材の活用に向けた取り組みが求められています。さらには、性別、年齢、出身地、障がいの有無にかかわらず、より多くの人材が生きがいを持って就労に参加しやすいモデル都市を形成していくことこそが、福岡市でのイノベーションのさらなる創出につながっていくはずです。

テキスト:研究員 中村 由美

005. 外国人材が活躍できるまち、福岡

第3極の都市 plus 3」によれば、福岡市の都市競争力のポテンシャルとして上位に位置付けられている要素の中の一つに人材の多様性が挙げられます。本稿では、人材の多様性に着目し、福岡市に居住している外国人の状況についてデータで詳しく紹介します。

多様化する外国人人口
図1は、福岡市の外国人人口の推移です。外国人人口はここ12年間で約3万人までに増え、福岡市人口に占める外国人の割合は2%となりました。いまや、福岡市民100人のうち2人が外国人です。また、2010年以降はネパールとベトナム出身の外国人が急激に増え、全体の外国人数増加を押し上げています。福岡市では、外国人の国籍の多様化も進んでいます。

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三大都市を大きく上回る外国人人口の伸び率
福岡市の外国人の増加は、他の大都市に比べても急ピッチで進んでいます。図2は、外国人人口の伸び率を、2000年を100とした指数として福岡市、東京23区、名古屋市、大阪市で比較したものです。福岡市の外国人人口の増加は、他の大都市と比較して高い水準で伸びていることが分かります。2016年の福岡市の指数は、大阪市の約2倍に当たり、東京23区の「158.3」と名古屋市の「149.9」を上回る「208.4」を記録しました。福岡市の外国人人口の増加の背景には、福岡市の住みやすさと豊富な教育施設を求めて訪れる外国人留学生の増加があります。

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増え続けるグローバルな人材
福岡市における外国人留学生の推移は図3のとおりです。2004年に約3千人だった留学生数は2016年には約9千人まで約3倍に増加し、福岡市外国人人口に占める留学生の割合は16.4%から31.0%へと約2倍に増えました。2016年現在、福岡市の外国人10人のうち3人は市内の大学、専門学校などの教育施設に在籍している留学生です。2009年から2010年にかけて留学生数が急増していますが、在留資格の見直しがその背景にあります。2010年より、在留資格「就学」と「留学」の区別がなくなり、「就学」が「留学」在留資格へと一本化されました。それを受け、大学と短期大学などいわゆる高等教育機関を除いた教育機関、例えば日本語学校等に在学する「就学」在留資格の外国人学生も「留学」在留資格を取得することになりました。その結果、外国人留学生の母数が増加することになりました。
2010年以降、福岡市では中国人留学生が減少している一方、ネパールとベトナム人留学生が急増しており、これが福岡市外国人人口の国籍の割合に変化をもたらしています。

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高まる外国人材向けの教育のニーズ
図4は、外国人留学生数の推移を教育機関別に示したものです。2012年以降、日本語学校と専門学校の外国人留学生は増加している一方、大学・大学院の外国人留学生は横ばいとなっています。日本語学校では、ネパールとベトナム人留学生が増加しています。彼らは日本での就職を目指しており、日本語学校卒業後は専門スキルを身に付けるために専門学校に進学する傾向があります。その結果、専門学校の留学生数も増加しています。2016年時点で福岡市には85の専門学校があり、そのうち36校に外国人留学生が在籍しています。彼らに人気のある専門学校は、IT系(コンピュータ、アニメーション等)および国際ビジネス系の専門学校です。専門学校卒業後は、大学進学を選ぶ人も少なくありません。

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外国人材の活躍・定着に向けた環境整備の充実
福岡市では、外国人留学生の活躍と定着を支援するための様々な取組みが行われています。例えば、行政レベルでは福岡での就職を希望する留学生とグローバル人材としての留学生に興味を持つ地場企業との交流の場を提供する「留学生と企業との交流サロン」を年2回ほど開催しています。福岡の企業関係者と留学生との交流会で、留学生に日本の企業文化を知ってもらうことが目的です。
また、福岡で就職を希望する優秀な留学生を選抜して奨学金を給付する「よかトピア留学生奨学金(就業体験付き奨学金)」、福岡の地場企業への就職を希望する既卒留学生と優秀な留学生の受入れを希望する地場企業等とのマッチングを行い、採用試験を兼ねた約4週間の就業体験を提供する「既卒留学生を対象とした有償の長期就業体験事業」などを実施しています。
更に、グローバル創業・雇用創出特区の規制緩和の一つとして、外国人留学生の卒業後に認められた就職活動のための在留期間の延長を国へ提案し、2016年12月には、卒業後の滞在を最大2年間までとする規制緩和が全国措置として実現しています。

福岡の企業に就職する外国人材が急増
外国人留学生の卒業後の定着と活躍に向けた支援は、福岡の外国人留学生の雇用拡大に繋がっています。図5は、福岡県における、外国人留学生が企業等への就職を目的として行なった在留資格変更許可申請のうち、許可件数を示しています。福岡県では、2016年には、700人を超える外国人留学生が就労のための在留資格を獲得しました。前年度に比べて約33%増という大幅な伸びを示しており、外国人留学生に対する就職支援策の効果が着実に表れつつあります。
福岡市でみてみると、2016年の福岡県内の外国人留学生数(15,755人)に占める福岡市内の外国人留学生数(9,598人)の割合は約61%であることから、福岡市内では、703人のうちおよそ428人が就職したと推計できます。

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外国人材の雇用の安定化
図6は、福岡都市圏(福岡市と周辺市町の9市8町)内の企業で雇用されている外国人数と雇用企業(事業所)数の推移です。福岡都市圏内の企業に従業中の外国人は、2009年の7,613人から2016年の21,488人へと、この8年間で13,875人増加しました。その主な要因は、外国人を採用した企業の増加であり、2009年の1,518社から2016年の3,264社へと2倍以上増加しています。また、外国人の雇用形態をみると、「派遣」または「請負」といった臨時的労働力としての外国人従業者数の割合は減少し、直接雇用の外国人従業者数の割合が増えています。このことから、福岡市とその周辺地域では近年外国人の安定した雇用が進んでいることがうかがえます。

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多文化共創社会の成熟が期待される福岡市
今後、福岡市が都市の競争力の高いグローバル交流拠点として成長していくためには、地域と企業が、既に社会に受け入れている外国人留学生や外国人社員(元留学生)の価値を再認識した上で、かれらの多様性をより活かせるような社会環境を整備していくことが重要です。たとえば、外国人社員のビジネスレベルでの日本語力の向上や、日本独自の商習慣に対応できるスキル習得のための教育環境の充実が求められます。外国人雇用の安定化を一層図ることも重要です。そのために、外国人留学生を地場企業とマッチさせるさらなる仕組みづくりが求められています。福岡に住まいながら学び、アルバイトも経験している外国人留学生は、福岡の将来にとって貴重な人材の一翼を担いつつあります。留学生比率・外国人比率が他都市よりも高い福岡では、さらなる多様性を受け容れつつ、これまで築いてきた多文化共創社会の一層の成熟が期待されます。

テキスト:研究主査 柳 基憲

006. 福岡市のグローバル・ネットワーク(1)

日本国内では、海外との連携による新事業が盛んに生まれています。イノベーション創出にとって、グローバル・ネットワークは不可欠な条件になっているといえます。そこで、今回は福岡市と海外各都市間のグローバル・ネットワークに着目します。

オープンイノベーションによる新事業創出
近年、日本国内では、企業や自治体が「オープンイノベーション」の手法を活用した事業創出活動を盛んに行っています。「オープンイノベーション」とは、この言葉の提唱者であるHenry W. Chesbroughによれば、「組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果、組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすこと」です(「オープンイノベーション白書」p.4)。2015年には、経済産業省所管の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局を務めるオープンイノベーション協議会(JOIC)が設立されました。この協議会設立により、国内の「オープンイノベーション」がさらに加速しています。JOICとNEDOが発行した「オープンイノベーション白書 初版(2016年7月)」によれば、国内のベンチャー企業と連携経験のある企業は26.6%でしたが、その2倍以上の56.8%が「今後ベンチャー企業との連携を推進したい」と回答しています。将来的に、大企業とベンチャー企業との連携によるイノベーション創出の可能性の高さが窺えます。それに加えて、海外のベンチャー企業との連携実績は16.2%であったのに対し、約2.5倍となる40.1%の企業が、今後連携したいという意向を示しています。日本企業の中では、国内にとどまらずに、海外からのアイデアや技術を取り込み、新規事業を展開したいという意向がますます強まってきていることがわかります。

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日本企業の国外ベンチャー企業との連携
いま流行りであるからという理由だけで「オープンイノベーション」に取り組んだとしても、事業は長続きしないという意見も多く見受けられます(*)。しかし、「オープンイノベーション」へのチャレンジをきっかけに、日本の大手企業が国内外のベンチャー企業に門戸を開くという意思決定を行うことは、グローバルな事業展開に向けた大きな一歩となります。日本企業の国外ベンチャー企業との連携の一例として、2017年1月、パナソニック株式会社が提供開始を発表したコーヒー焙煎サービス「The Roast(ザ・ロースト)」があります。このサービスは、①コーヒー生豆の宅配、②それぞれの豆に合わせた焙煎プロファイル(焙煎の設定条件)、③スマートフォンのアプリで操作する焙煎機本体の3つの工程がセットになったものです。この焙煎機は、英国のスタートアップ企業IKAWA社との技術提携によって開発されました。自社開発ではなく外部スタートアップ企業との連携を選択したことで、新規商品の開発期間が通常の二分の一以上短縮されたうえ、新たなサービスを生み出すに至りました(駐日英国大使館・総領事館 国際通商部「技術とデザインを融合する英国スタートアップとパナソニックの出会い」)本事例は、イノベーションの創出において、国外との連携が重要な手段となることを示唆しています。
*2016年12月7日、日本経済新聞「トヨタのオープンイノベーション、脱「上から目線」カギ」、2017年08月10、日経コンピュータ「「上から目線」と「儲かりまっか」がオープンイノベーションを失敗させる」、2017年08月28日、 Business Insider Japan「大企業はオープンイノベーションごっこから脱出せよ」

都市の競争力を補強する、グローバル・ネットワーク
情報通信技術(ICT)の進化や交通手段の発達により、ヒト、モノ、情報の国内外の都市間移動がそれまでに比べて容易になりました。都市間の交流が活発になるにともない、国境を超えて新たなイノベーションが生じることが期待されています。イノベーションという観点から、都市の持つグローバル・ネットワークは、その都市の機能を補強します。福岡市は、「国際地域ベンチマーク協議会(IRBC: International Regions Benchmarking Consortium)」(*)の一員であることから、グローバル・ネットワークを有する都市であり、その強みを活かしてイノベーション創出に向けた取り組みを進めています。その具体的な取り組みについて紹介していきます。
*IRBCは、2008年にシアトル(米国)の呼びかけで設立され、都市の規模や経済特性において類似性のある世界の10地域が参加している国際都市間ネットワークです。都市に関するデータ収集および比較分析、都市の課題や成功した取り組みの共有を通じて相互学習の機会を持つとともに、加盟都市や加盟地域の行政・経済・大学への連絡窓口としての役割も果たしています。

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福岡市のグローバル・ネットワーク活用事例①:グローバル・スタートアップ支援連携
福岡市は、2012年に「スタートアップ都市・ふくおか」宣言を行い、2014年に「グローバル創業・雇用創出特区」に認定されてから、現在に至るまでスタートアップ関連事業に積極的に取り組んでいます。このように、福岡市がスタートアップの重要性に着目したきっかけは、2011年、福岡市の高島市長がバンクーバー(カナダ)で開催されたIRBC国際会議に参加し、同行程中にスタートアップの聖地であるシアトル(米国)を訪問したことにあります。(参照記事1:http://thebridge.jp/2014/10/fukuoka-startupcafe-openingtalksession)(参照記事2:https://forbesjapan.com/articles/detail/16740)。2016年度からは、「グローバル展開を見据えた創業が可能となる環境づくり」(福岡市「FUKUOKA 特区通信 Vol.6」)として、海外のスタートアップ拠点とのネットワーク構築が強化されています。具体的には、起業支援施設の相互利用や現地での起業相談の受付などの相互協力を行うプラットフォームづくりが進められています。これまでに、ヘルシンキ(フィンランド)、エストニア、台北(台湾)、ボルドー(フランス)、オークランド(ニュージーランド)、シンガポールとの都市間MoUが締結され、サンフランシスコ(アメリカ)、台湾の創業支援施設との連携が整備されました(http://www.startupcafe-global.com/#_3)。とくに、ヘルシンキ市とは、IRBCですでに構築されていたネットワークが活用されたことで、「福岡市とヘルシンキ市との相互協力に関する覚書」および「スタートアップ交流事業に関する協定書」の締結に至りました(起業支援施設の詳細はコラム参照)。

福岡市スタートアップカフェ Fukuoka City Startup Cafe

福岡市スタートアップカフェ

ヘルシンキ市のスタートアップ支援施設
2016年12月、福岡市・ヘルシンキ市間で締結された「スタートアップ交流事業に関する協定書」の主な拠点となる創業支援施設は、福岡側は「福岡市スタートアップカフェ」、ヘルシンキ側は「NewCo Helsinki」です。ヘルシンキ市にはこの施設を含め、3ヵ所の主要な公的起業支援施設があります。各施設の主体となる組織は、政府、自治体、大学、民間からのそれぞれ異なる組み合わせで構成されていますが、特徴的な点は、各施設の役割が事業の成長フェーズに合わせて設計されていることです。①起業家精神を育む施設「Helsinki Think Company」、②コワーキングエリアやシェアオフィスを活用して実際にビジネスチームを形成、事業開発を行い、シード・エンジェル資金調達を目指す施設「NewCo Helsinki」、③軌道に乗り始めたスタートアップが資金調達やバイアウトを意識しつつ、更なる事業展開を目指す施設「Maria 0-1」の三施設では、それぞれ成長段階に合わせた様々な起業支援が行われています。ヘルシンキ市のあるフィンランドは、人口約550万人、名目GDP2,391億ドルという小国です。しかし、隣国には人口とGDPともに約2倍(人口1,000万人、GDP4,926億ドル)を有するスウェーデンが位置しており、その地の利を生かして、国外との連携の上で教育やスタートアップ・エコシステム作りを行っていることが特徴的です(フィンランドおよびスウェーデンの数値は外務省HP参照)。フィンランドの人口は福岡県と同程度、スウェーデンも九州全体よりも人口が少ない小国であり、ともにEU圏では末端地域に位置しているにもかかわらず、強い経済力を維持している原動力は、イノベーションです。

事業の成長フェーズ Startup Development Phases

事業の成長フェーズ

Helsinki Think Company

Helsinki Think Company

NewCo Helsinki

NewCo Helsinki

Maria 0-1

Maria 0-1

福岡市のグローバル・ネットワーク活用事例②:社会実験国際賞(LLGA)への参加を通じた他都市との連携強化
2012年と2013年に、「福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)」(*1)は、Citymart主催の「社会実験国際賞(LLGA = Living Labs Global Award)」に参加しました。Citymartは、本拠地をバルセロナ市(スペイン)に置き、市民の暮らしの質の向上を目的として、また結果としての公共サービスの費用対効果の改善ならびに新市場創造による地域経済の活性化を副次的な目的として、都市課題の革新的な解決策(ソリューション)の導入を推進する企業です。創設者のハゼルメイヤー氏は、2003年にLiving Labs GlobalというNGOを設立して同様の活動を積み重ねて来ましたが、2011年に企業としてのCitymartを創設し、世界中の多くの都市や団体と連携して事業を推進しています。LLGAとは、世界の各都市が都市づくりに関する課題を公開し、世界中のソリューション提供企業に公募をかけ、マッチングを行う事業です。Citymartは、2010年から2014年までの5年間に、本事業を通じて42都市と1,200企業をマッチングさせ、都市づくりに向けた30件以上の先導事業を実施しました。(*2)
*1)福岡地域の成長戦略の策定から推進までを一貫して行う、産学官民一体のシンク&ドゥタンク
*2)ソリューション公募の選考結果によると、受賞者の95%が中小企業であり、公共調達への応札が容易ではない中小企業にとって、外国の都市のソリューション募集に応募でき、事業拡大に向けた実績づくりやネットワーキングができるというチャンスとなっている。

Citymartと協業したことのある都市 Cities Collaborated with Citymart

Citymartと協業したことのある都市

2013年にFukuoka D.C.が、公開した課題「スマートな国際会議開催地(MICE)」に対しても、米国、カナダ、英国、フランス、ポーランド、オランダ、ポルトガル、ベルギーなど世界中から30件の応募が寄せられました。最優秀賞に選ばれた米国のGuidebook社によるソリューション「Guidebook」は、その後、福岡市を含む福岡地域コミュニティの協力のもとで、「福岡MICEアプリ」の開発が行われ、国際イベント「スマートモビリティアジア2013」において、参加者の利用動向を把握するという社会実験が行われました。このように、「都市づくりに向けた課題の解決」への取り組みをつうじて、福岡市と海外との連携が一層強化されるとともに、福岡市では、スタートアップ支援策の一環として、社会実験を受け入れる必要性が検討される良い機会にもなりました(参照:福岡地域戦略推進協議会)。

実証実験アプリ Pilot application

実証実験アプリ Pilot application

テキスト:研究員 山田 美里

007. 福岡市のグローバル・ネットワーク(2)
Global Networks of Fukuoka City (2)
Fukuoka Growth006では、福岡市のグローバル・ネットワーク活用事例を紹介しました。今回は、IRBC各都市のグローバル・ネットワーク活用事例を紹介します。さらに、前回の内容を踏まえて、福岡市のグローバル化とイノベーションの国際的なポジションを確認したうえで、福岡市がイノベーション創出都市となるために必要な課題について検討します。
海外のグローバル・ネットワーク事例①:シアトルの「GIX: Global Innovation Exchange」
2015年、シアトル・ベルビュー市(米国ワシントン州)において、米国ワシントン大学と、「中国のMIT」と呼ばれる清華大学が、Microsoft社による4,000万ドルの資金提供を受け、テクノロジーとイノベーションに特化した大学院(先端技術研究機関)「グローバル・イノベーション・エクスチェンジ(Global Innovation Exchange: GIX)」を共同で設立しました。GIXは、最先端のイノベーションを有する大学と出資者が、国境を超えて協力することで、イノベーションリーダーとなりうる人材を育成することを目指しています。2016年秋に、まず10名が北京の清華大学でプログラムを開始しました(*1)。2017年9月にベルビュー市の新しいキャンパスで開講されたテクノロジー・イノベーションの修士プログラムに入学した43名のうち、半数は米国と中国出身学生が占めていますが、残り半数は、カナダ、エストニア、フランス、インド、パキスタン、パラグアイ、ロシア、スイスなど世界各国から集まりました(*2)。10年後には約70倍となる3,000名の学生を受け入れることが目標とされていることから、GIXは、今後、さらにグローバルな人材の集積地となるでしょう。GIXでは、イノベーションリーダー育成のための取り組みの一環として、「GIXイノベーション・コンペティション(GIX Innovation Competition)」というコンペも実施されています。このコンペは、30歳以下の学生やイノベーターを対象に、現実性と将来性を兼ね備えたソリューションを募集するものです。2016年に開催された第1回コンペのテーマ「コネクテッド・デバイス、イノベーションと変化(Connected Devices, Innovation and Change)」には、世界中から300件にも上る応募が寄せられました。最優秀賞に選ばれたのは、「持ち運びのできる多様性物理解析機」、「持ち運びのできる空気清浄システム」、そして「簡単で低コストのVR用3D入力操作手袋」の3件です(参照:ワシントン大学(*3))。2017年に開催された第2回コンペも前年に引き続き「コネクテッド・デバイス(Connected Devices)」というテーマで実施されました。第2回目は、新たな試みとして、中国のO2O(online to offline)大手企業「美団-大衆点評(Meituan-Dianping)」と提携し、効率的で遂行可能な配達ソリューションとしての「出前ロボット」を募集する特別枠も設けられました(*4)。このことから、中国も将来活躍できるような人材の確保を見据えて、優秀でイノベーション創出志向の高い学生を世界中から誘引するGIXに対して、高い期待をかけていることが窺えます。
*1) https://www.xconomy.com/seattle/2016/12/05/global-innovation-exchange-plans-menu-of-ip-options-for-students/
*2) https://www.insidehighered.com/news/2017/10/09/u-washington-tsinghua-launch-innovation-focused-programs-part-microsoft-funded
*3)https://www.washington.edu/regents/files/2017/09/2017-09-A-2.pdf
*4)「美団-大衆点評」は、中国国内で出前アプリなどの提供を手がける大手企業。特別枠(Special Meituan-Dianping Track)については、https://www.geekwire.com/calendar-event/connected-devices-gix-2017-innovation-competition-project-registration/を参照。
* GIXの中国における現状については、本研究所インターンの賈春暉氏のレポート(2017年8月29日)を参照。
海外のグローバル・ネットワーク事例②:スウェーデン・ウプサラ大学「AIMDay
ストックホルムの中心市街地から車で約1時間の場所に位置する、北欧最古のウプサラ大学では、研究者、専門家、企業や団体の職員が集まり、一つの課題に対し1時間討論を行うプロジェクト「エイム・デー(AIMDay)」が実施されています。「AIMDay」の進め方ですが、まず企業から課題が提出されます。その課題に対する関心を持った研究者らが参加を申し込むと、企業から2、3名、研究者から5、6名の合計6、7名の小規模なディスカッション・グループが組成され、「AIMDay」の日程が調整されます。企業から出される課題の分野は、イノベーションにとどまらず、製造業などの産業から、癌や糖尿病という健康分野に至るまで、多岐にわたります。討論時間は1時間に限られていますが、事業につなげるために、討論後のフォロー・アップも充実しています。例えば、討論の中で良いアイディアが出た場合には、事業化に向けた資金調達制度に申請することも可能であり、申請のための支援が受けられます。「AIMDay」は現在、スウェーデン国内だけにとどまらず、英国のオックスフォード大学、エジンバラ大学など他国でも開催されています。テーマは、「エネルギー」(エジンバラ大学・2017年6月)、「高齢化」(オックスフォード大学・2017年7月)、「未来の製造業」(エジンバラ大学・2018年1月)のように、今後の都市の成長に関るものばかりです。スウェーデンの「AIMDay」という取り組みは英国にも広まり、各都市の課題の解決や、イノベーションの創出に向けた実践的な手法が実行されています。
右・左上) ウプサラ大学、左下)ウプサラ市内 Uppsala University, and the city view

右・左上) ウプサラ大学、左下)ウプサラ市内

福岡とIRBC各都市のグローバル・ネットワークとイノベーションにかかわる指標の比較
以上のように、福岡市およびIRBCメンバーである各都市は、グローバル・ネットワークを活かしながら、イノベーション創出に向けた施策を展開しています。ここで、本稿で事例を紹介したヘルシンキ、バルセロナ、シアトル、ストックホルム、および福岡の5都市のグローバル化とイノベーションのポジションを確認してみましょう。「『第3極』の都市plus3」より、グローバル化とイノベーションにかかわる8つの指標を取り上げ、該当する都市について整理します。具体的には、「人口一万人あたり特許申請件数(都市圏)」、「従業者一人あたりGDP(都市圏)」、「年間新規開業率開業率」、「QS大学ランキング掲載大学数(都市圏)」、「QS最上位校順位」、「直行便就航都市数」、「外国生まれ居住者割合」、「QS最上位校留学生比率」という指標を取り上げます。残念ながら、現在のところ、福岡のポジションは他都市に比べて突出して高いとは言い難いものの、唯一、人材の豊富さを表す留学生比率は、2016年時点で11%であり、ヘルシンキやバルセロナにせまる割合となっています。留学生比率は、2013年の調査(『第3極』の都市)より2%増えたことからも、福岡では、グローバルな繋がりやイノベーションを創出する多様な人材の誘引が確実に行われてきたといえます。

特許申請件数の多さ
イノベーションを計る基準となる人口1万人あたりの特許申請件数は、北欧2都市(ストックホルム5.68件、ヘルシンキ3.48件)とシアトル(4.36件)が突出しており、福岡(1.39件)との差は約2.5倍から4倍です。FG2017_007_figure01_tmb

経済力の強さ
域内GDPを域内の労働者数で割った、従業者一人あたりGDPを5都市で比較すると、福岡は最下位となっています。FG2017_007_figure02_tmb

スタートアップの多さ
各都市で起業文化がどれほど社会に根付いているかをみるために、各国の年間新規開業率を比べます。上位のフィンランド、スペイン、スウェーデンはいずれも10%を超えており、続く米国も7.4%です。これらの国に比べて、日本は4.6%であり、まだ起業文化が根付いているとは言い難いのが現状です。

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大学のグローバル評価
各都市圏において、QS世界大学ランキング500校に選ばれた大学の数および最も高い順位の大学の順位を比較します。最上位校は、前述の清華大学(中国)と共同で大学院のGIXを設立したワシントン大学で、シアトル唯一の掲載校です。北欧2都市は150位以内が2校ずつあります。バルセロナは最上位校の順位は低いですが、4校がランキングに掲載されています。福岡は九州大学の1校のみで135位です。

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国際空港機能
5都市の国際空港における直行便就航都市数を比較すると、福岡の少なさが顕著にあらわれますが、国内線就航都市数はヘルシンキ、バルセロナよりも多くなっています。

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海外人材の割合
5都市の外国生まれの居住者割合を比較すると、ストックホルムは約4人に1人が、シアトルは約5人に1人が外国生まれとなっています。一方、福岡は1.9%で最下位ですが、留学生比率は、前述の通り増え続けており、他都市に迫る勢いです。

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グローバル・ネットワークを活用したイノベーション創出都市へ
都市の持続的な成長に欠かせない要素であるイノベーションは、異分野・異業種・異セクター、そして異文化間の交流により創出されます。下図は、前節のグローバル化とイノベーションにかかわる指標データをそれぞれ合成し、算出したスコアを散布図に配置したものです。グローバル化とイノベーションの各項目において、いずれの都市も福岡よりもスコアが高いことがわかります。ですが、すでに述べたように、これまで、福岡市は、グローバル・スタートアップ支援連携事業やIRBC参加など、積極的に国際都市間ネットワークを構築してきました。こうしたグローバル・ネットワークのさらなる強化によるグローバル化の促進と、グローバル・ネットワークの有効活用によるイノベーション創出こそが、福岡市のポジション向上にとって重要な鍵となります。これに加えて、今後は、イノベーションを生み出す主体である起業家や民間企業が、グローバル・ネットワークをうまく活用できるように支援していくことも望まれます。近年では、気軽に使用できる翻訳アプリや通訳支援ツールも普及しています。こうした昨今の技術革新のおかげで、これまで国外に踏み出す際の大きなネックであった言語の障壁は、ほとんどなくなってきています。福岡市には、これまでに構築されてきたグローバル・ネットワークを土台に、新たなイノベーションが創出される環境が整っているのです。

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テキスト:研究員 山田 美里

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