REPORT
刊行物・研究報告
総合研究
2014.03.11
市街化調整区域の施策に関する研究
趣旨目的
福岡市には、都市計画法において「開発を抑制すべき区域」とされている市街化調整区域が東区、早良区、西区を中心として、市街地を取り巻くように存在している。この市街化調整区域では、土地利用への制限のために既存集落が疲弊し、かつ主幹産業である農業の弱体化に伴い、土地利用の荒廃が顕著になってきているといわれてきた。また市街化調整区域に多くある農村集落(必ずしも農業が主体ではない)では、人口減少や高齢化が急速に進んでいるといわれている。特に市街化調整区域内の農村集落の多くが、農業での生活維持が厳しくなっている中で兼業化を進めている。市街化調整区域の土地利用のうち、農業的土地利用の占める割合は高く、農村集落をどのように持続可能にしていくのかが、市街化調整区域の施策を考える上で、大きな課題である。これら市街化調整区域内の社会構造の変容は、市街化調整区域の地域構造に大きく影響していると考えられる。そこで本研究では、市街化調整区域の健全な発展、土地の有効利用、農村集落の維持に向けて、三つの切り口を研究の軸として、研究を進めた。それは、市街化調整区域における①土地利用制度の他都市比較、②農村集落状況調査、③高齢者の生活実態調査である。その分析結果を踏まえて、既存の市街化調整区域のあり方を検討する基礎調査とするとともに、福岡市における都市・土地政策の方向を探ることを目的とした。
研究手法及び調査内容
①市街化調整区域の土地利用に関する現況把握について、GISデータを活用して市街化調整区域の特性を抽出し、福岡市における市街化調整区域の土地利用の状況を把握した。その結果、福岡市の市街化調整区域は、西区、早良 区、東区などの周辺部に分布し、市街地を取り囲むようにあることが明らかになった。
②市街化調整区域の土地利用について現況把握をするとともに、類似政令指定都市及び特徴のある市街化調整区域の土地利用制度を有している市町を現地調査し、市街化調整区域内の地区計画、自治体条例の制定、都市計画区 域内の線引き見直しを行った都市などについて、福岡市の都市計画制度に関する比較研究の素材として調査を行い、福岡市の都市政策を展開する上での先進事例として整理した。先進事例のうち、線引き都市では、市街化調整区 域の活性化には一定の成果を挙げている一方で、再スプロール化の傾向も見られた。また一部の都市では、集約型都市構造をマスタープランに取り入れ、都市の縮小に備えているところもあった。このように他都市では、市街化調整区域の土地利用制度の整備を進めつつあることが明らかになった。
③市街化調整区域内にある農村集落の将来動向を把握するために、西区北崎校区と熊本大学地域社会研究会の協力を得て、「T型集落点検」というワークショップを西区の2集落で実施し、地域住民の農業的土地利用の意向や農業の後継者等の状況を把握した。その成果を踏まえ、地域から出ている家族(他出子)の動向が、集落維持の政策的なポイントになることが明らかになった。
④市街化調整区域の集落を持続可能にする際には、土地利用の担い手である人口の高齢化と減少を検討する必要がある。そこで市街化調整区域における人口高齢化の実態把握のため、個別ヒアリングを4箇所で実施することで、状況を把握した。その結果、市街化調整区域の家族は、多世代が多いため、市街地のようにすぐに高齢化が問題として顕在化することはないが、全体的な高齢化は進んでおり、早期の対応が必要であることが明らかになった。また地域の要望として、公共交通機関の維持が複数あったことは特徴的である。
研究期間
平成20年4月~平成21年3月
担当
山本 匡毅 研究主査 ※研究責任者
梶返 恭彦 研究主査
篠﨑 慎一 研究主査