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刊行物・研究報告

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コラム
2025.05.21
「第3極」の都市2025 – Global City Status

福岡アジア都市研究所(URC)は、各種統計をもとに、福岡のグローバル・ポジションを明らかにする『「第3極」の都市』を隔年で発行しています。
この度、シリーズ最新となる『「第3極」の都市2025-Global City Status』を発行いたしました。
今回も、「都市の成長」、「生活の質」に関する指標をもとに、類似性を持つ9つの国際都市(シアトル、バンクーバー、メルボルン、ミュンヘン、バルセロナ、ストックホルム、ヘルシンキ、釜山、福岡)と比較し、福岡のポジションがどのように変化したのかをレポートしています。
加えて、世界的な都市調査における福岡のランキングの状況や、東アジア・東南アジアの福岡と同規模都市との比較などにも触れ、福岡の「グローバルシティ」としての位置付けや役割を考察しています。
仕様
- 図表(福岡と世界の都市との比較を視覚化)
- 日本語・英語併記
- 冊子(A4サイズ・90ページ)
- 引用可能(「(公財)福岡アジア都市研究所(URC)」と出典を明示すれば、報道や調査研究で引用可能。※第三者提供の写真・画像を除く。)
特徴
- 世界で評価される先進都市と福岡を比較。福岡の世界的な位置、優位性、劣位性を明らかに
- 「物価水準」、「関連情報件数」、「空港旅客数」など、9都市に関する様々な指標をわかりやすい図表を用いて比較
- グローバルシティ・福岡の存在感を高めていくために現在のポジションを把握
- 日本語と英語を併記。WEBサイトでダウンロード可
ポイント
★福岡の特性と変化★
- 「都市の成長」分野は先進都市との差が縮小
- 海外サイトでの地域名検索(+51.4%)、訪問者数(国内+65.3%・海外+12.6%)など、世界における福岡の存在感の高まりや訪問者の増加を示す数値が向上
- 「生活の質」分野は、9都市の中でも中位で、シアトルやミュンヘンなど、国際的に評価される都市と同等水準
- 世界的物価高傾向の中、外食費の低さなどの生活コストの優位性が向上。また、犯罪の少なさなどに強み。
- ➡ダウンロード(pdf/約11.9MB)
2024年に定期的にウェブ上で発信した『「第3極」の都市』は、以下よりお読みいただけます。
シリーズ01 『「第3極」の都市』のプロフィール
『「第3極」の都市』のプロフィールを改めて紹介します。
『「第3極」の都市』

面積
*四捨五入の関係で合計値が一致しない場合があります/ Totals may not match due to rounding
市域と面積規模は、それぞれ異なり、シアトルやメルボルンの都市圏面積は広大ですが、市域面積は小さくなっています。これに対し、福岡、バルセロナや釜山は、都市圏まで含めても1,000k㎡前後のコンパクトな都市となっています。
メルボルンとシアトルは面積両都市圏とも面積が他の都市圏よりも広く、その中でコンパクトな中心市街地が形成されています。

人口
『「第3極」の都市』は、東京やニューヨークのようなメガシティではありません。人口規模としては、都市圏人口が400万人前後の都市です。一定の規模を有しながら、そこに住む人が暮らしやすいバランスのとれた都市であることが共通しています。
9都市圏の人口は、メルボルンが約515万人、シアトルが約448万人で比較的多くなっていますが、市域人口は少なくなっています。釜山は広域市のため、全体で約329万人です。
福岡は約265万人で、市域人口が約165万人、比較的市域人口の比率が高くなっています。
人口密度(k㎡あたり人口)
人口密度(1km²あたり人口)は、市域では各都市概ね3,000~6,000ですが、バルセロナは16,000人あまりと突出しており、コンパクトなエリアに非常に多くの人が住んでいます。
都市圏では、バルセロナが5,200人あまりで多く、次いで広域市である釜山市が約4,300人、福岡市が約2,300人の順となっています。広域市である釜山市を除くその他の都市は、都市圏の人口密度は1,000人未満のところが多く、より市域へ集中する傾向が強くなっています。
直近の人口増減率(1年あたり)
都市圏人口の、2年前(『「第3極」の都市2023』時)からの増減率は、バンクーバーやミュンヘンは年率3%前後で高いのに対し、釜山は-2.1%で唯一減少しています。
福岡都市圏は、年率0.5%でストックホルムやバルセロナと同水準となっています。
今回は、主に人口の変化を確認しました。
『「第3極」の都市』は、2年おきに発行していますが、このほかにもさまざまなデータで9都市を比較していきます。今後も更新データを紹介していまいります。
シリーズ02 都市に住む人々の心のゆとりを生む 「生活の質」
「都市の成長」は、都市が、周りの人や資源、情報などとつながりを深めながら、自らの価値を高めることで実現されます。
これに対し、「生活の質の向上」は、文字通り、そこに暮らす人々の日々の生活が快適で、利便性が高く、ゆとりある都市空間を有することが要件となります。
『「第3極」の都市』の9都市は、「生活の質」で高い評価を得ています。そこには、どのような快適さや豊かさがあるのでしょうか。そして、福岡は、どのような位置付けなのでしょうか。いくつかの指標をみてみます。
住みやすい気候はストレスを軽減
毎月の降雨量と平均気温


Source: 世界の天候データツール(ClimatView・気象庁Japan Meteorological Agency)
*気温、降水量はいずれも平年値/Temperatures and precipitation are normal value
近年、世界的に豪雨や猛暑など災害級の気候に関する異常な事象が続いています。異常気象の予測は困難ですが、毎年の気候は、都市の住みやすさを左右する基本的な要件の一つです。猛暑や極寒、豪雨の期間が長いと、快適性が損なわれ、人々の暮らしは多くの我慢を強いられますが、過ごしやすい気候は、人々のストレスを軽減し、さまざまな活動を促す効果が期待されます。
『「第3極」の都市』の気候はどうでしょうか。
各都市は、それぞれ地理的な特性はあるものの、いずれも深刻な気候のストレスもなく、快適な環境を有しています。
東アジア地域の福岡や釜山は、夏季の月平均降雨量が300mm前後で、平均気温が25℃を超えるなど、高温多雨な期間があります。福岡は、夏季の平均気温が25度以上と9都市で最も高くなっています。
ヨーロッパの各都市は、年間を通して月降雨量は100mm以下の月が多くなっていますが、月の平均気温は冬季に10度以下となる都市が多く、特に北欧ヘルシンキやストックホルム、ミュンヘンは、0度前後で寒さが厳しくなっています。
一方、メルボルンやバルセロナは、1年を通して気温が10~25℃の快適な期間が長くなっています。
物価は生活のゆとりを左右する
物価は、生活における出費の自由度や選択肢を左右し、都市における豊かな暮らしに直結します。
各都市の各種物価水準の比較をみてみましょう。外食、食料雑貨類、家賃の3項目の物価水準について、ニューヨークの価格を100とした数値によって示しています。
福岡は、全てが最も低い水準です。距離的に近い釜山も似たような水準になっています。
家賃や食費は、毎月の義務的支出の大きな割合を占めます。義務的支出が低ければ、それだけ選択的支出の割合が大きくなり、生活にゆとりや豊かさが生まれます。
市民も訪問者も食で満足
食は生活の基本であると同時に、都市の文化です。そこに暮らす人はもちろん、訪問者にとっても、食は都市を知り、評価する重要なファクターとなります。SNSなど、個人が都市の食を紹介する機会も増えました。それを見て、また多くの人がその都市に興味を抱きます。
トリップアドバイザーサイトで紹介されているレストラン件数は、福岡が1万件で、バルセロナと並んで、食の豊富さを示しています。福岡は、他都市と比較して低い食費で、多くの選択肢が用意されています。旅の目的で、食の重要性が高まれば、福岡を訪れる人はさらに増えるはずです。
芸術と文化で豊かな暮らしを
都市の生活を豊かにするために、芸術の果たす役割は小さくありません。各都市の芸術・文化施設の充実度をみてみます。
トリップアドバイザーで紹介されているシアター、ミュージアムの数は、バルセロナが際立っています。
このほか、シアターではメルボルン、シアトルなどが続き、ミュージアムではシアトルが多くなっていますが、その他の都市は、80件前後で大きな差はありません。
福岡と釜山は、シアター、ミュージアムとも他の都市と比較して少なく、やはり文化面では、北米・欧州の各都市の強さを感じさせられます。アジア地域と欧米の文化的な成り立ちの差があることも一因と考えられます。
一方、近年は、文化面でも多様性が広がっていることから、福岡らしい芸術・文化を楽しむ取組みを広げていくことが、都市の豊かさやクリエイティビティの向上にも繋がる要素ではないでしょうか。他都市と比較して、支出面で自由度が高い福岡の強みをいかし、文化面の環境がより充実されることで、生活の豊かさをもっと感じられる都市に進化するはずです。
今回は、「生活の質」に焦点をあてて、各都市の状況を一部ご紹介しました。
今後も、『「第3極」の都市』のさまざまなデータを紹介してまいります。