REPORT
刊行物・研究報告
コラム
2017.02.07
「第3極」の都市plus 3 コラム
ごあいさつ
当研究所は2014年度、福岡と類似性を有している、首都・経済首都でなくメガ・シティでもない5つの都市(シアトル・バンクーバー・メルボルン・ミュンヘン・バルセロナ)のグローバル競争力を福岡と比較し、その研究成果を『「第3極」の都市』として公表しました。
それから約2年、国境を超えたグローバリゼーションの波は、ますます高くなっており、日本でアジアへの最前線に位置する福岡へ影響はとくに顕著になってきました。博多港への外航クルーズ船の急増は、その影響の一端であるといえます。
グローバルな力を大きく取り込んできた福岡の、グローバルなポジションは変わってきたのでしょうか。今年度は、情報戦略室の監修のもと、新しい視点も加えながら、『「第3極」の都市 plus 3』として、シリーズで更新していくことにしました。福岡をグローバルでダイナミックな観点から分析し、政策やビジネスのみならず、日々の生活へのヒントをご提供できればと考えています。
情報戦略室長 久保隆行
「第3極」の都市とは?
世界には、さまざまな機関から「グローバル都市」として評価を受けている都市が存在し、FUKUOKAもその一員です。ここにリストアップしたおよそ100の「グローバル都市」には、首都・経済首都が大多数を占めます。これらの都市には国家の最大の投資がなされるため、競争力が高まることは当然といえます。また、首都・経済首都に該当しなくても、巨大都市であるがゆえに、集積の力によって「グローバル都市」としての存在感を高めている都市も多く存在します。
一方、これらに該当しない都市の中で、特化したグローバル都市機能に依存せず、さらに生活の質において高い評価を受ける「グローバル都市」が複数あります。FUKUOKAを含むこれらの都市を「第3極」の都市と位置づけ、相対的なグローバル評価を2014年度に行いました。
2014年度のFUKUOKAの総合評価
「第3極」の都市には、IRBC(国際地域ベンチマーク協議会)に所属する首都ではない6都市が福岡とともに含まれています。これらの6都市について「生活の質」と「都市の成長」の2つの軸を設定し、これらを構成する指標をスコア評価しました。福岡は、「生活の質」において他都市と同等の水準であることがわかりました。
しかし、「都市の成長」においては、他都市と大きな格差があることが明らかになりました。「都市の成長」を構成する指標スコアが全般的に低いことから、これらを相互に持続的に向上させるための、長期的かつ戦略的な取り組みの必要性が浮かび上がりました。
四半世紀の未来を見据えたFUKUOKAの発展戦略とは?
当研究所では、グローバルなベンチマーキングから明らかになった、福岡の「生活の質」の強みと「都市の成長」の弱みを踏まえ、「シナリオ・プランニング」のフレームワークを応用し、25年先を見据えた福岡の持続的な発展戦略の検討を進め、『発展する都市/衰退する都市』として公表しました。
世界の中で福岡を取り巻くさまざまな情勢を分析した結果、未来への発展あるいは衰退を方向付けるキー・ドライビング・フォース:KDFとして、「グローバル化への対応」と「イノベーションの実装」が浮かび上がりました。KDFに応じて、私たち自身を含む都市全体が変革していくことができれば、グローバル競争力のより高い都市へと発展するシナリオの実現は可能です。しかし、現状に甘んじて変革を拒み続けた場合、徐々に衰退するシナリオが待ち受けています。
グローバルな力の取り込みとイノベーション創出がキーとなる
「発展する都市」を実現するためには、福岡の経済成長は欠かせません。福岡の現在の人口増加ペースを維持しながら、生産性と労働参加率を高めた場合、年率約1.4%での持続的な経済成長を達成することが可能であると試算できました。
そのためには、グローバルな知見や労働力、消費力などの取り込みに加え、創造性の高い産業クラスターの形成や、イノベーション・エコシステムの構築が必至となります。
日本では寛容性の高い都市として知られる福岡では、域外からの移住者が増加し、ダイバーシティが高まりつつあります。さらに、「グローバル創業・雇用創出特区」によって、イノベーティブな都市づくりが進められています。
グローバル化とイノベーション創出で先行する「第3極」の5都市
2014年度の調査結果をもとに、福岡とベンチマーク5都市の指標のなかから、グローバル化とイノベーションにかかわる指標のみを合成して比較を行いました。グローバル化については、評価項目のなかから「4-E. 海外人材の割合」と「4-H. 国際空港機能」を、イノベーションについては、「4-A. 特許申請件数の多さ」と「4-B. スタートアップの多さ」を構成する指標を抽出しています(各指標データはレポートをご覧ください)。
その結果、グローバル化とイノベーションの各項目において、いずれの都市も福岡よりもスコアが高いことが明らかになりました。また、グローバル化とイノベーションにかかわる指標スコアの高さは、経済力にかかわる指標スコア(「3-H. 企業の売上規模」、「3-I. 経済力の強さ」の合成)の高さとも相関関係にあります。
「第3極」の都市への新たな視点
首都・経済首都ではなく、メガ・シティでもなく、生活の質の高い、コンパクトな「第3極」の都市の成長力は、グローバル化とイノベーションによってもたらされている可能性が高いと考えられます。国境を超えた都市と都市とのグローバルなつながりは、グローバルな市場形成を意味し、人材供給やインバウンドの循環をもたらします。グローバルに交流するヒトや情報は、イノベーションを促進すると考えられます。これらは、都市の人口規模が小さいにもかかわらず、大きく成長できる要因なのです。
このような観点から、今回の更新においては、国家全体の人口規模がメガ・ティよりも小さいながらも、強い経済力を備え、かつ生活の質の評価も高い都市をもベンチマークします。都市の一次的な後背地を国家と考えた場合、国家の人口規模が小さな都市は、経済成長のためにはグローバルなコネクションを強化せざるを得ないためです。また、小さな国は労働力人口も限られているため、付加価値の高い製品やサービスを生み出さなければ、高いGDPを生み出すことはできません。その原動力は、イノベーションにほかなりません。
今回の更新ではさらに、アジアでの福岡のポジションを把握するために、アジア先進国からもベンチマーク都市を追加することにします。
テキスト:情報戦略室長 久保隆行
2016年Monocleで7位に評価されたFukuoka
今年もMonocleによるMost Liveable Cities in The Worldが発表されました。気になる福岡の順位ですが、昨年の12位から過去最高となる7位に順位を上げました。福岡については、以下のように講評されています。
Under the inventive mayor Takashima, this thriving city on the island of Kyushu, is becoming ever more green, bike-friendly, and business-savvy.
独創性あふれる高島市長のもと、九州で成長しているこの都市は、かつてないほど環境に優しく、自転車に友好的で、ビジネスに精通してきている。(URC翻訳)
FUKUOKA NEXTのかけ声のもと、国家戦略特区など現在進められているさまざまな取り組みの成果が、福岡のランキング上昇として表れてきました。人口増加や経済成長のみならず、都市環境向上への取り組みも評価されていることが今回のポイントだといえそうです。
世界で最も住みやすい都市は?
世界には、Monocle以外にも「住みやすい都市」のランキングがあります。グローバルに展開するコンサルティング・ファームのMercerは、毎年Quality of Living Surveyを公表しています。また、英国エコノミスト調査部門のEconomist Intelligence Unit(EIU)もGlobal Liveability Rankingを公表しています。
これら2つのランキングに、福岡は現在のところランク・インしていません。MercerとEIUのランキングの上位25都市と、Monocleの25都市を並べてみました。3つのランキングすべてに、あるいは2つのランキングにランク・インしている都市が多いことに気が付きます。これら複数のランキングの上位にランク・インすることも、福岡の今後の大きな目標だといえます。
世界で最も豊かで住みやすい都市は?
Mercer、EIU、Monocleの3つのランキングの上位25都市の何れかにランク・インしている都市は、全部で42都市です。これらの都市を、国別に仕分けると、ドイツが最も多い7都市になります。次いで、カナダとオーストラリアからそれぞれ5都市ランク・インしています。
日本からは、福岡、東京、大阪、京都の4都市がランク・インしており、国別でみると4位です。こうやってみると、日本の都市の住みやすさは、世界的にも評価されてきていることがわかります。ちなみに、アジアからは、日本以外ではシンガポールと香港のみがランク・インしています。
しかし、住みやすいのと同時に、日本よりも経済的な豊かさを享受していると考えられる国の都市は、少なくありません。国別の一人当たりGDPにおいて、日本より上位の国に所属する都市は、35を数えます。なお、ここに占める都市はすべて先進国の主要都市であり、国の一人当たりGDPよりも都市の一人当たりGDPのほうがさらに高いと想定されます。
小さな国の豊かで住みやすい都市は?
次に、35都市の所属する国の人口規模の大きい順に、都市を並べ替えます。人口の多い国は自国内の市場規模が大きいため、人口の多い国の都市は人口の少ない国の都市と比べて、集積によるさまざまな恩恵を受けやすくなります。そのため、人口規模1,000万人を超えるようなメガ・シティもしばしば誕生します。それは、規模が大きいほうが経済的なメリットが大きいからにほかなりません。
しかし、国の人口が1,000万人を下回るような小さな国の都市は、メガ・シティになりたくても、なりようがありません。にもかかわらず、豊かさと住みやすさを両立している都市があります。ここでは、13都市がそのような都市に該当しました。
小さな国の豊かで住みやすいコンパクトシティは?
13都市には、アジアからシンガポールと香港が残りました。両都市とも歴史的に、英語を公用語としながら海外市場に展開し、自国市場に依存しない経済発展を遂げてきました。これら2都市は、住みやすさの評価も高く、私たちも学ぶべきことは多くあります。一方、両都市ともに、限られたテリトリーにもかかわらず、都市は巨大化しつつあります。
ここでは、福岡と同じ価値観を共有する意味で、コンパクトな都市を抽出します。コンパクトシティの明確な定義はありません。国連ハビタットは今年3月に、「都市と国土計画に係る国際ガイドライン」を発行しました。ガイドラインは、26都市の事例を掲載しており、そのなかで福岡の「コンパクトで暮らしやすいまちづくり」がモデルとして紹介されています。
福岡都市圏の人口は約250万であることから、ここではその約半分から2倍以内の100万~500万の都市圏人口規模の都市を抽出します。その結果、7都市が、小さな国の豊かで住みやすいコンパクトシティとして浮上しました。なお、人口規模100万以下の都市も、もちろんコンパクトです。しかし、人口が少ないとサービスの需要も少ないため、公共施設などの機能面において、一定の人口を有する都市と比べて見劣りする場合があります。
九州/福岡県のなかの福岡都市圏/福岡市との類似都市
以上の分析の結果、「小さな国の豊かで住みやすいコンパクトシティ」は、大きい順に、ウィーン、コペンハーゲン、ストックホルム、オークランド、ヘルシンキ、オスロ、チューリッヒの7都市となりました。魅力的な都市ばかりですが、さらに絞り込みを進めます。
最後に、それぞれの都市の国の人口と、その中での都市の人口集中率をみます。7都市の属する国の人口は、およそ500万~1,000万です。これらは、福岡県(約510万)~九州(約1,300万)の人口規模に相当します。
次に、7都市それぞれの国における人口集中率をみます。ヘルシンキは、国の人口546万に対して都市の人口は146万で集中率は約27%です。福岡県のなかでの福岡市の状況に非常に近いといえます。ストックホルムは、国の人口970万に対して都市の人口は196万で集中率は約20%です。九州のなかでの福岡都市圏の状況と似通っています。
福岡と同様の規模の後背地を持ち、福岡よりも経済的に豊かであり住みやすいとされるコンパクトシティとして、ヘルシンキとストックホルムが最終的に残りました。また、これら2都市は、福岡やほかの「第3極」の都市と同じく、IRBCのメンバーです。
日本の末端都市とヨーロッパの末端都市
福岡は、日本の政令指定都市のなかで、2番目に首都東京から離れています。国土の中では末端に位置しています。それゆえ、首都圏経済へのアクセスには限界があり、地域独自の経済圏のなかでの成長を遂げてきました。また、古来より東洋のみならず、西洋へのゲートウェイとしても発展してきた都市です。
ヘルシンキとストックホルムも、ヨーロッパでの立ち位置は福岡の日本での立ち位置と似ています。ヨーロッパ第3都市のベルリンからでもそれぞれの都市までは、およそ1,000キロ離れており、ヨーロッパでは末端に位置しています。これら末端都市の高い経済力と、住みやすさの評価は、どのように生み出されているのでしょうか。
福岡と類似する姉妹都市
「第3極」の都市plus3では、アジアの都市もベンチマークする方針をかかげました。日本よりも経済的に豊かで、住みやすさの評価の高い都市は、シンガポールと香港しかありません。しかし、これら都市は、コンパクトさの面で、福岡のベンチマークにはふさわしくありません。IRBCには、韓国のテジョンも加盟しているため、候補として考えられますが、グローバル都市としての評価、あるいは住みやすい都市としての評価は未だ得られていません。
そこで、福岡市の姉妹都市をみてみることにします。オークランド市(米国)、アトランタ市(アメリカ合衆国)、ボルドー市(フランス)、オークランド市(ニュージーランド)、広州市(中国)、イポー市(マレーシア)、釜山広域市(大韓民国)の7都市になります。
2014年の「第3極」の都市の選定プロセスにおいて、最終段階の一歩手前まで絞り込まれた都市に、アトランタ(米国)、バーミンガム(英国)、釜山(韓国)、ケープタウン(南アフリカ)、クラクフ(ポーランド)が含まれていました。これら都市は、首都でなく、メガ・シティでもない、グローバル都市として評価される都市でしたが、住みやすい都市としての世界的評価がなかったため、選ばれませんでした。しかし、これらには、福岡市の姉妹都市が2都市も含まれていました。アトランタと釜山です。
韓国の末端都市:釜山
釜山は、韓国の東南端に位置する、韓国第2の都市です。しかし、首都ソウルが人口2,000万をこえる巨大都市圏を形成する一方で、釜山都市圏の人口は400万にも届きません。釜山は、韓国内では比較的温暖で、物価も安く、生活の質ではソウルよりも高いとされています。ソウルまでの距離はおよそ300キロあるのに対して、福岡までは約200キロの近さです。福岡と釜山は古くから玄界灘を境とした交流が盛んで、姉妹都市であるばかりでなく、行政交流都市でもあります。
釜山は、韓国では末端に位置しますが、東南アジア、そして日本を含む巨大市場への韓国側のゲートウェイでもあります。近年のクルーズ船やインバウンドは、福岡と同様に急増していると考えられます。
このような観点から、「第3極」の都市plus3では、アジアからは釜山を、福岡のベンチマーク都市に追加します。
「第3極」の都市plus3の都市力は?
福岡の新たなベンチマークとなる3都市を追加し、いよいよ9都市からなる「第3極」の都市plus3の都市力を比較していきます。
9都市の都市圏域の人口規模を比較すると、最も小さいヘルシンキと最も大きいメルボルンには2倍以上の格差が生じています。この格差は、都市力にも大きく影響するのでしょうか?
次回からの更新をご期待ください!
テキスト:情報戦略室長 久保隆行
米国での人気ぶりが話題となり、先日ホワイトハウスの記者会見でも使用時の注意が促されたスマホ向けゲーム「ポケモンGO」(Niantic、任天堂など)の配信が日本でも開始されました。現時点で、「第3極」の都市plus3に選定した9都市(釜山、ヘルシンキ、ストックホルム、バルセロナ、ミュンヘン、メルボルン、バンクーバー、シアトル、福岡)でも、釜山を除く全都市でポケモンを探せるようです。「ポケモンGO」ユーザーは幅広い年齢層になると見込まれますが、9都市にはどのような人が住んでいるのでしょうか。
今回は、「第3極」の都市の評価軸のひとつである「生活の質」のうち、「生活・コミュニティ」にかかわる指標を比較します。
9都市の圏域と人口
まず、9都市の中核となる市とその周辺地域である都市圏の人口と面積をみてみます。
釜山は広域市のため、市域と都市圏域が重なりバルセロナの都市圏域と同じくらいのサイズですが、面積は9都市の市域面積のなかで最大です。都市圏で最小人口のヘルシンキは最大人口のメルボルンの約二分の一ですが、市域人口はバンクーバー、シアトルと大差ありません。9都市の市域規模が近いことや、市域人口と市域外人口のバランスが似通っていることから、都市圏の境界設定に差はあるものの、いずれの都市も一定の範囲に近い規模の人口集積がなされていると考えられます。
着実に進む高齢化
次に、都市の基本的な構成要素である「人」に注目し、人口構成をみていきます。福岡市は国内大都市のなかで最も若者(15~29歳)の割合が高い都市ですが、9都市のなかでは、平均年齢が釜山、ミュンヘンとともに最も高く約42歳となっています。次いで、ヘルシンキとバンクーバーが40歳と高く、最も低いメルボルンは36歳で、最も高い3都市と6歳の差があります。
また、人口に占める65歳以上の高齢者の割合(州ごとの比較)も、福岡が含まれる九州・沖縄が、9つの州のなかで最も高い比率となっています。同じ年(2012年)の福岡市の高齢者比率は18.2%と州(九州・沖縄)よりも低い数値となっていますが、高齢化は継続して進んでおり、2014年には19.7%になっています。世界的に高所得国で高齢化が進んでいるといわれています。高齢化率上位10か国(World Bank・2015年)に、「第3極」の都市plus3から日本、ドイツ、フィンランド、スウェーデンが入っており、福岡、ミュンヘン、ヘルシンキの人口構成が比較的近い状況にあることが考えられます。
都市の活力は人にあり
都市の活力は人が生み出します。そのカギを握る「人」の変化、人口動態を比較します。福岡は、全国の政令指定都市のなかでは最も高い人口増加率を記録し、2010年からの5年間で5.1%増えました。しかし、各都市圏の人口増加率においては、北欧2都市とともに比較的低い数値となっています。釜山は唯一人口減ですが、各国の合計特殊出生率の比較においては、最下位ながらも他の低い地域と遜色ありません。福岡市の合計特殊出生率(2013年)は1.24と全国より低く、最下位の韓国よりも若干低くなっています。都市の活力を維持するためには、社会増だけでなく自然増も促進する余地があるとみてとれます。
仕事効率化で余暇を楽しむ
都市の魅力のひとつに、余暇を楽しむ環境を挙げることができます。限られた時間を余暇に費やすには、労働時間が短い必要があります。国別の年間実労働時間を比較すると、韓国の労働時間が最も長くなっています。日本の労働時間は、夏季休暇を1か月取得することは珍しくないヨーロッパ諸国と大差ありません。しかし、経済の好調なドイツの年間労働時間が最も短いことから、労働の時間よりも質が重視されていることがうかがえます。福岡でも働き方のさらなる効率化が図られ労働時間が短くなれば、余暇を楽しむ人が増え、まちの活気が都市の魅力となるかもしれません。
稼げる都市
各州の一人当たり家計可処分所得を比較すると、ワシントン州が最も高くなっています。慶南州と九州・沖縄は最も低い水準です。また、各都市圏(福岡は九州北部大都市圏)の一人当たりGDP(ppp:購買力平価ベース)の比較において、福岡は最も低く、釜山はバルセロナよりも高くなっていますが、9都市圏のなかでは低い数値です。最も高いのはシアトルで、ミュンヘン、ストックホルムが続きます。一人当たり家計可処分所得とのずれは、州と都市圏の差であり、州の所得が都市圏の経済力に支えられていることがうかがえます。
なお、福岡市の2013年度市民経済計算にもとづく一人当たりGDPは444万円であり、2016年6月末ドル円相場1US$=103.25円で計算した場合、約43,000US$となります。福岡の一人当たりGDPは現在の為替レートではバンクーバーに近い水準にあるとみることができます。
物価の安さは財布に優しい
バブル崩壊後、コストパフォーマンスに対する意識が消費者の間に広まりました。都市生活を快適に過ごすには、物価の安さが関わります。ここでは、各都市における各種物価水準について、Numbeo.comによる各種物価のオンライン調査データの比較を行いました。外食、食料雑貨類、家賃の3項目の物価水準について、ニューヨークの価格を100とした数値によって示されています。福岡の家賃と外食価格の水準は、9都市のなかで最も低くなっています。一方、食料雑貨類価格は最も高く、ニューヨークの水準に近いものとなりました。最近の円高の影響があるのかもしれません。
また、近年韓国の物価は上昇し、釜山と福岡の物価は似たような水準になっています。
寄附でささえる共助社会へ
都市には様々な人が集まりささえあって暮らしています。すべての人から義務として徴収した税金で多くの人々をささえています。他に、ボランティアで自主的に都市社会をささえることもできます。そのひとつに寄附という金銭的なささえかたがあります。ここでは、ジョンズ・ホプキンス大学の調査による各国の寄付金額の対GDP比によって、9都市のささえあいの傾向を見てみます。9か国のなかでは、ドイツ、韓国、日本の比率が低く、最高の米国と大きな差があります。日本でも近年社会貢献意識は高まっていますが、確実に近づく超高齢化社会にそなえ、活力あふれる共助社会づくりが求められており、そのような活動をささえる寄附の充実が必要とされています。情報通信技術やアプリケーションの普及により、クラウドファンディングなど新しい形での寄附が市民に浸透してきているなか、今後上昇余地のある指標といえます。
オリンピック・パラリンピックで世界中の耳目を集めたブラジル・リオデジャネイロ。皆さんも熱狂されたと思います。現在、リオデジャネイロでは、オリンピックのレガシーをどう活用していくかで議論が白熱しています。根本的な社会変革が必要な諸問題に取り組んでいるリオデジャネイロですが、その先を行く「第3極」の都市plus3に選定された諸都市では、どのような社会環境・自然環境が存在し、都市のよりよい暮らしに貢献しているのでしょうか。(※「バモス(Vamos)」とはブラジル・ポルトガル語で「Let’s Go!」の意味)
今回は、「第3極」の都市の評価軸のひとつである「生活の質」のうち、「安全性・持続性」にかかわる指標を比較します。
都市化が進むと犯罪が増える?
ブラジル第二の都市リオデジャネイロは、世界最高レベルの犯罪率に悩まされています。近年、一層複雑化する経済階層や人種構成といった要因をもとに、都市では、その歪みが犯罪という形で表出しています。ここでは各9都市の十万人あたりの殺人件数を比較してみましょう。
まず目立つのが、メルボルンの突出した数値の高さです。最も安全な福岡・バンクーバー・ヘルシンキとの格差は歴然です。ヨーロッパでは比較的数値の高いバルセロナ・ストックホルムと数値の低いヘルシンキ・ミュンヘンとで、明暗が分かれています。また、北米の2都市もさほど数値が高いわけではありません。犯罪率の低さが都市のよりよい暮らしに直結するのは自明ですが、これをどう対外的にアピールし魅力度を増していくかも、今後の大事な課題でしょう。
どこにいても自然の脅威から逃げ切ることはできない
東日本大震災や熊本地震で、一時的に外国人の足が、被災地域とその周辺から遠のいたことは記憶に新しく、災害頻度は都市のイメージに影響を与える重要な因子であると思われます。そこで、9都市の災害頻度を比較してみると、それぞれの都市で様々な災害が発生していることが分かります。福岡では、台風の発生頻度が最も高く、釜山も同様の頻度となっています。しかし、福岡での洪水の頻度は釜山よりも低く、福岡の治水対策に一定の成果をみることができます。ミュンヘン・シアトル・バルセロナでも、洪水の発生頻度が最も高く、治水対策が最重要課題であると考えられます。ヘルシンキ・ストックホルム・バンクーバーは、総合的に災害の少ない地域であるといえます。
健康でいるために都市に求められるもの
医療はその国及び地域の福祉制度の中枢であり、医療の充実なくして地域の成長はありません。保険制度やその国の医療レベルにも左右される出生時平均余命ですが、ここではまず医師数との関連性を考察してみましょう。EU(特に北欧)の諸地域とメルボルンの属するビクトリア州が医師数の充実を示すのに対し、アジアと北米の諸地域は医師数が比較的少ないようです。その中でも九州・沖縄は上位の諸地域に近接していますが、改善の余地は大いにあります。
次に、出生時平均余命を見てみると、シアトルがあるワシントン州の低さが際立ちます。充実した医療に裏打ちされた出生時平均余命の高さを示している、ストックホルム県やビクトリア州と比べて、その差は3年にもなります。なお、カタルーニャ州と九州・沖縄では医師数が平均的な水準に位置しているものの、出生時平均余命では高い数値を出しています。その一方で、ヘルシンキ・ウーシマー地域とバイエルン州で、医師数が充実している割に出生時平均余命が短いのは気候や食事なども影響している可能性があります。
環境問題を克服した都市のゆくえ
環境問題は局地的問題ではなく、グローバル規模の問題です。この問題にどれほど真剣に取り組んでいるかは、その都市の先進性を示す指標になるのではないでしょうか。下記のグラフを見ると、第一に、アジアとEUの都市のCO2排出量の少なさがよく分かります。一方で、寒冷地のヘルシンキと温暖なメルボルンの排出量の多さが目立ち、それらに北米の2都市が続いています。環境規制の整備が進むEUと韓国に対し、日本・福岡も同程度の基準を示しています。環境問題への市民ひとりひとりの自覚に加え、環境分野での一層の技術的イノベーションが期待されます。
PM2.5に代表されるような近年の公害問題もまた、グローバル規模の問題です。PM2.5の大きな発生源の中国に近接する都市である釜山と福岡の数値は突出しており、一国では解決できない課題の深刻さをみることができます。
都市が選ぶことができない気候
シリコンバレーの発展には、暖和で晴れの多い気候が貢献したとする説もあります。気候が都市の発展に多少でも相関があるとすれば、一考に値するでしょう。ここでの比較グラフを見ると、シリコンバレーと同じ米西海岸に位置するシアトルの快適気温月数と福岡のそれとは同じであり、シアトル以上であるバンクーバー、メルボルンと並んで、市民が温暖な気候を享受していると言えます。また、雨天日数を見ても福岡は平均的な場所に位置しており、多雨でもなく少雨でもない、比較的安定した気候を有する都市であることが分かります。
ヨーロッパでは、ストックホルムの快適気温月数は、バルセロナと同等である一方で、ストックホルムの雨天日数は9都市で最も多く、バルセロナは最も少なくなっています。晴天の日数の多さは、都市の持つ気候のイメージに大きな影響をもたらしていると考えられます。
自然は都市をささえる重要機能
都市は人工的な創造物ですが、自然の要素を多く含んでおり、そのバランスが重要であると考えられます。9都市の中心部より半径10km圏での緑地と水面の占有面積を比較してみます。ヘルシンキと釜山では、10km圏の半分以上を自然が占めていることがわかります。水の都として有名なストックホルムでは、緑地の面積も水面と同等にあります。港湾都市として発展してきたバルセロナ、メルボルン、バンクーバー、シアトル、福岡では、水面の面積の大きさがそれを象徴しています。ミュンヘンは唯一海に面していない都市ですが、緑地面積は3番目に多くなっています。いずれの都市においても、今後都心部の人口密度上昇にともない、如何に自然を保全し、活用していくかが都市開発のポイントであるといえます。
エネルギー消費の少ないコンパクト・シティ
都市のコンパクト・シティ度合いを計る基準の一つである人口密度を見てみましょう。9都市の中で人口密度が圧倒的に高いのはバルセロナです。2位以下の3倍近くあります。19世紀から計画的な集合住宅が整備されているバルセロナですが、近年の移民の流入もあって限度に達しつつあるのも事実です。そこで、近年は住宅地が周辺地域にも拡張しており、それが非常に高い都市圏人口密度にも反映されています。バルセロナに次いで、都市圏人口密度の高い都市は釜山です(釜山は都市圏と市域の区別がありません)。ストックホルム、ミュンヘン、メルボルン、バンクーバー、福岡は、市域人口密度が比較的近く、空間利用にも共通性があると考えられます。9都市で最も都市圏域の大きいシアトルでは、市域人口密度は最も低く、都市圏への人口の分散をうかがうことができます。
公共交通は都市を健康にする
人口密度の次に、その人口のモビリティを支えるインフラの要と言える鉄道の駅数を見てみましょう。9都市の中心部から半径10km圏での駅の数を、緑地・水面を除く陸地(可住地域)の面積で割った数値(駅密度)を比較します。ここでもバルセロナはトップであり、公共交通も人口密度の高さに応じて整備されていることがうかがえます。釜山とストックホルムは、他都市に比べて駅密度は高く、それとは対照的にシアトルとバンクーバーの低さが目立ちます。トラムやバスなどの他の交通機関の選択肢もありますが、大量輸送が可能な鉄道は都市の効率的な運営に最も寄与すると考えられます。図を見ると、釜山やストックホルム、バルセロナでは人口居住地域に均一に鉄道駅が設置されていることが分かります。福岡は、鉄道は一定に整備されていますが、まだ余白の地域も見受けられます。因みに、メルボルンは世界最大規模(総延長250km、総停留所数1,763ヶ所)を誇るトラム網を有しています。都市圏域が非常に広く人口が分散しているメルボルンでは、小規模でも駅数を多く設置できるトラムが人口運輸の中核を担っているようです。
Brexitに続き、アメリカでは、トランプ大統領が現実となりました。世界の力の均衡が、新たな形を模索しているようにも見えます。より混沌とする現代でも、都市は着実に成長する必要があります。いま現在保有するリソースをいかに向上・活用し、生産力を上げていくか、これに成功した都市が時機を掴むでしょう。しかし、現有のリソースに固執すれば、産業転換に失敗し、あっという間に凋落してしまう可能性もあります。非常に難しい舵取りを求められている中、「第3極」の都市plus3に選定された諸都市の現状を考察してみましょう。
今回は、「第3極」の都市の評価軸のひとつである「都市の成長」のうち、「リソース・生産力」にかかわる指標を比較します。
世界で増え続ける観光客を魅了せよ
都市に人を引き付ける観光業。日本国内でもインバウンド取り込みに各自治体が躍起になっています。ここでは、9都市の観光資源に注目してみましょう。バルセロナは、世界遺産数、TripAdvisor上の観光資源数ともに他都市を圧倒しています。ヨーロッパの他都市と比べても、その差は歴然です。ストックホルムは9都市で唯一、市内から10km圏内に2ヶ所の世界遺産が存在しており、観光集客に寄与していると考えられます。シアトルの観光資源数は、バルセロナに次ぐ数となっており、昨今の観光都市化がみられます。福岡は、「第3極の都市」2014年度版と比較して、観光資源数が格段に増えています。これには、福岡を訪れた外国人観光客が、TripAdvisorの福岡のページを豊かにしていることが理由として考えられます。昨年世界遺産に登録された三池炭鉱に代表されるような観光地の国際化が進むにつれ、福岡の魅力が徐々に海外に発信され始めているようです。因みに、釜山、ミュンヘン、バンクーバー、シアトル、福岡の各都市には市内に世界遺産が存在しません。しかしながら福岡は5都市の中でも観光資源数が2番目に多く、今後のポテンシャルは十分にあるといえます。
都市に滞在するための必須アイテム
観光客の増加に応じて、宿泊施設の需要は高まります。ホテル件数を見ると、ここでもバルセロナは最も多く、メルボルンが次いでいます。メルボルンは、観光だけでなく、オーストラリアの経済都市として、ビジネス面での宿泊需要の多さも関連していると思われます。五つ星ホテルも25件と、31件のバルセロナに引けを取りません。次いでシアトルと釜山が並びますが、この2都市は3つ星、2つ星ホテルの割合が大きいことが特徴です。福岡は、この指標においてはヘルシンキと最下位を争っています。福岡にとって、観光客受け入れ規模拡大のための宿泊施設の整備は喫緊の課題であることに変わりありません。
芸術との接触によって都市の文化度を磨く
ここで見るのは、博物館や美術館、劇場などの文化施設の数です。ここでもバルセロナが際立っています。それにシアトル、バンクーバー、ストックホルム、ミュンヘンなどの北米・欧州の各都市が連なっており、やはり文化面での強さを感じさせられます。また、メルボルンやバンクーバー、シアトルなどは、文化施設数全体に占めるシアターの数が多く、ミュージカルやコンサートなどの文化体験の機会を市民が豊富に有していることが分かります。北米や豪州では、欧州の伝統を継ぐハイカルチャーと当地で発展したポップカルチャーの両方が良い影響を与え合え、共栄している印象を受けます。そして、ここでも福岡の文化施設の少なさが目立ちます。文化施設は、都市のクリエイティビティの向上にも繋がる大事な要素ではないでしょうか。福岡の文化面の環境がより整備されると、様々な面で波及効果が生まれるはずです。
食も都市の重要な文化である
食の面では9都市にどのような違いが見られるのでしょうか。TripAdvisorにて評点が付与されているレストランの数を比べてみると、最も多いバルセロナに次いで、福岡が抜きん出て多いことが分かります。3番目に多い釜山よりも2,000軒ほど多くなっています。1,000件程度と最も少ないヘルシンキを除いて、他の都市は2,500件前後にまとまっています。スペイン料理も日本料理も世界的に人気が高まり、当地で消費されるだけでなく世界中で食される文化として根付いています。それに伴い、観光客が本場の味を求めて当地を訪れるケースも増えています。福岡の特徴として食が挙げられるということは、国外ではまだあまり知られていません。しかし、とんこつラーメンはその豊かな風味が外国人に受け、北米や欧州、東アジアを中心に世界中で圧倒的に認知度が高い食品となっています。明太子は、魚卵を忌避しがちな外国人にもその味が大きな人気を博しています。これら福岡発祥の味の魅力をPRし、外国人をさらに惹きつけることが期待されます。
都市に活気をもたらすスポーツ
市民を熱狂させる地元のスポーツチーム。その本拠地となり、オフシーズンにはコンサート会場にもなる、重要な市民のモビリティのホットスポットであるドーム・スタジアムの数を比べてみましょう。ここでは、メルボルンが最多で、シアトルがそれに次いでいます。メルボルン、シアトル共に各人気競技の大規模スタジアムが競技毎にバランス良く整備されており、市民へのスポーツ文化の普及が見受けられます。釜山、ストックホルム、バルセロナはスタジアム数が充実しているものの、サッカー・野球などの人気競技への偏りが見られます。福岡は、ヘルシンキ、ミュンヘン、バンクーバーと並んで、3ヶ所と最も少ないようです。オリンピックの開催実績では、それぞれ一度開催したことのある5都市が、他の4都市と比べて大きな存在感を放っているといえます。昨今の五輪は、その経済効果に疑問が投げかけられていますが、知名度向上の効果は計り知れません。東京五輪においても東北地方などでの分担開催が取り沙汰されています。アジアに近い福岡は、将来的には海外都市との共催も視野に検討してみてはどうでしょうか。
ブランド化した都市の名前
Googleで検索されるということは、その都市への関心・興味を如実に反映する指標です。それぞれの国の言語で都市名をキーワード検索し、ヒットした数を9都市にて比較してみると、バルセロナがここでも最多となっています。人々のバルセロナへの関心の高さは群を抜いているといえます。都市の名が入ったスポーツチームやランドマークなどにも影響されるのは事実ですが、それらも含めた上で都市の存在感は形成されます。欧米の各都市では各言語でバランス良くヒット数が揃っていますが、福岡と釜山では自国語でのヒット数が目立ちます。この2都市は、特に国外へのアピールが課題であるといえるでしょう。
豊かな人材によって都市は豊かになる
都市の生産力について、ここでは労働力人口が人口に占める割合と、労働力人口の増加率を比較します。労働力人口割合では、最大のストックホルムと最小の釜山との間に約10%もの差があります。ヨーロッパで最も平均年齢の若い都市の一つといわれるストックホルムと、少子高齢化と若者の流出が進む釜山との対比は鮮明です。しかしながら、福岡も楽観視できません。9都市中、労働力人口割合が50%を切っているのは釜山と福岡だけです。労働力人口増加率が0.5%というのは、日本国内で見れば高い水準ですが、世界の同等の都市と比較すると労働力人口の少なさが目立ちます。
労働者の教育水準の高さは生産性に直結します。労働者に占める高校卒以上の割合を比べてみると、バルセロナが属するカタルーニャを除いた全地域が、80%を超える高い水準を示しています。スペインでは、高等教育に進む若者が少ないことが社会問題化していますが、その他の8都市ではその傾向は見られないようです。
都市の力を牽引する企業
都市の経済成長の根幹といえる大企業の実態を見てみましょう。ミュンヘンとメルボルンには、Fortune 500に掲載されている国際的な大企業がそれぞれ4社ずつあります。ミュンヘンには、アリアンツやミュンヘン再保険などの保険業界のトップ企業の本社に加え、BMW、シーメンスといった製造業の巨人企業の本社があります。かたや、メルボルンにはオセアニア地域最大手の2つの銀行の本店があります。これらから両都市の経済的な強さを見て取ることができるのではないでしょうか。シアトルでは、二年前のFortune 500では104位だったマイクロソフトが63位に上昇しましたが、112位だったアマゾン・ドット・コムは44位にまで順位を急激に伸ばし、マイクロソフトをあっさりと抜き去ってしまいました。シリコンバレーを筆頭に、アメリカ西海岸の都市では、世界最先端のイノベーション競争が繰り広げられています。福岡の最大企業である九州電力は、同じ公益事業会社であるバルセロナのGas Natural社の6割程度の売り上げにとどまっています。Fortune 500に掲載されるような都市の成長の基軸となりえる企業の登場が待たれます。
生産性の高い都市の経済力は強い
労働者が生み出す付加価値や消費額、投資額などを総合評価した国内総生産GDPで、9都市の経済活動規模の比較を試みます。ここでは、域内GDPを域内の労働者数で割った従業員一人あたりGDPを比較します。釜山より若干低い額に位置する福岡は、9都市中最下位となっています。最高額のシアトルと比べると半分程度、およそ67,000米ドルの差があります。9都市中でのシアトルの突出ぶりが目立つとはいえ、福岡の73,667米ドルという額は、平均的に約90,000米ドルを示している欧州の各都市と比較しても見劣りする水準です。
各都市のGDP成長率でも福岡は1.33%と、ミュンヘンの1.04%に次いで低い数値を示しています。福岡と同様に労働力人口の伸びが低い釜山が、これほど高い成長率を示していることは、主要産業の転換による可能性が考えられます。
あけましておめでとうございます。
本年も皆様にとって幸多き一年になりますようお祈り申し上げております。
さて、URCでは昨年からIRBCに関連する9都市を、最新データを基に比較してきました。その分析も今回で最後となります。様々な指標を通して、9都市の強みと弱み、現在の立ち位置と今後の展望などをお伝えすることが出来ておりましたら幸いです。2017年は9都市にとってどのような一年になるのでしょうか。
今回は、「第3極」の都市の評価軸のひとつである「都市の成長」のうち、「イノベーション・交流」にかかわる指標を比較します。
イノベーションの成果をあらわす特許
特許申請数はその都市の知識集積を示し、イノベーション力を計る基準になります。百万人あたりの特許申請件数を見てみると、北欧2都市とミュンヘン、シアトルが突出しています。これらの都市は、新進気鋭の起業家・技術者が集い、最新の技術やビジネスを生み出している中心となっているようです。福岡は、残りの都市の中では最も特許申請数の多い都市となっています。しかしながら、上位の都市群と競合するレベルになるためには、件数を少なくとも2倍に伸ばさなければなりません。
イノベーションの一翼を担うアントレプレナー
起業文化がどれほど社会に根付いているか、これは都市の今後を占う最重要項目でしょう。9ヶ国の新規開業率を比べてみると、韓国が最も多くなっており、北欧の2ヶ国やスペイン、オーストラリアがそれに続いています。9都市の中でも、特に、ストックホルムは、最近では世界に名の知れたスタートアップ拠点となっています。米国ブルッキングス研究所の最新レポート*でも、米国外ではチューリッヒと並んで唯一、「知識創造中心都市」との評価を受けています。直近の例でいえば、世界でトップシェアを誇る音楽系オンラインサービスのSpotifyやSoundCloudもストックホルム発です。このデータを見ても、日本には起業文化がまだまだ根付いていないと言えます。隣国韓国と比べると、その差は歴然です。
* “Redefining Global Cities.” Brookings. 29 Sept. 2016. https://www.brookings.edu/research/redefining-global-cities/
流動化する企業を法人税で魅了できるか
ここで9都市が属する各国の法人税実効税率を比較してみましょう。中央政府と地方政府を合わせた率で見てみると、アメリカが38.9%と最も高く、日本、オーストラリア、ドイツが30%に近い水準でそれに次いでいます。9ヶ国で最も低いのは北欧の2ヶ国です。昨今の法人税減税の議論においても、果たして法人税減税が国内外からの投資を促すのかということが取り沙汰されています。産業転換とイノベーションが進むスウェーデンやフィンランドに倣ってその水準にまで税率を下げれば、国内の設備投資や海外からの投資は進む可能性はあります。しかし、この2ヶ国が外国人材への魅力を増す政策を長い間試行錯誤してきたのに対し、日本はその点においては未だ整備が進んでいないことが問題です。法人税率が高い国と低い国、それぞれの狙いを検討した上で、日本の長期的ビジョンが策定された上でないと、この議論は行き着く場所のないものとなってしまうでしょう。
イノベーティブな人材を輩出する大学
それぞれの都市の地場産業に最も影響を与える要素は、その都市にある大学の先進性と卓越性ではないでしょうか。最近のベンチャー企業の中には、大学からのスピンオフ起業も多くあります。QS世界大学ランキングに基づいて9都市の有する大学を比較してみると、その数や順位には差があります。まず存在感を示すのが、メルボルンでしょう。最新の大学ランキング500位以内に入る大学が8校もあります。そして、その中の最上位校であるメルボルン大学は、9都市が擁する諸大学の中でも最上位校となっています(全世界42位)。8校の中には工科大学が2校あり、総合的な強みもうかがい知れます。バンクーバー、シアトル、ミュンヘンは70位以内の世界的有名大学を擁するものの、ランキングに掲載されている大学数は1~2と多くありません。一方、バルセロナは最上位校の順位は低いものの、ランキング掲載校は4校あります。北欧2都市には、150位以内が2校ずつあります。福岡は九州大学の1校のみで135位となっています。
ダイバーシティはイノベーションを加速させる
日本は、民族構成という基準で見れば、世界で最も多様性の低い国家の一つです。昨今のグローバリゼーションの中で、そうした日本の多様性の低さが、今後の日本の弱みになるという議論があります。多様な価値観の交流からイノベーションが生まれるという考え方に基づいてです。この考えが必ずとも真とは限りませんが、国際的な民族性多様化の流れを止めることは難しいのも事実です。現時点での、9都市の外国生まれ居住者割合を比較してみると、バンクーバーとメルボルンで市人口の3人に1人、ストックホルムとミュンヘンで4人に1人が外国生まれとなっています。移民大国アメリカのシアトルは18%と約5人に1人となっています。一方、福岡は1.9%で、釜山と並び最下位です。次に留学生比率を見ると、福岡はここでは善戦しています。九州大学の全学生の11%が留学生で、前回(2013年調査)より2%増えました。9都市の諸大学でも全体的に留学生比率は増え続けていますが、九州大学もこのペースを保てば、イノベーションの源としての役割を十分に果たせるはずです。
国内外からのお客様との交流機会
国内外からの訪問者数で9都市を比較します。昨年の最新データを基にし、前回(2009年調査)と見比べてみると、シアトルの急激な伸びがよく分かります。前回と比べて2倍強の伸びを示しています。そして、訪問者数のほとんど(約97%)が国内からとなっていることも特徴です。アマゾン・ドット・コムやその他の新興IT企業の成長がビジネス客の増大に貢献するとともに、国内向けの観光政策が成功を収めていることがその要因と考えられます。この交流機会の増大によって、シアトルが更なる発展を遂げる可能性は高いでしょう。メルボルンやミュンヘンも、国内からの訪問者数が前回から10~15%ほどの伸びを示しています。一方で、バルセロナでは内需の落ち込みからか前回より40%ほど国内からの訪問者数が減少しています。福岡については、国内からの訪問者数は若干減少しているものの、国外からの訪問者数は前回の2倍ほどに伸びています。この伸びは9都市中でも突出しています。日本国内の人口、経済規模が縮小し続けることを考えれば、もインバウンド政策は今後も福岡の重点政策として推進する必要があるといえます。
MICEを主導する国際会議
MICE (Meeting, Incentive tour, Convention/Conference, Exhibition)の開催によって、都市には異文化と活気が短期的に大量に流れ込みます。単なる観光やビジネスの旅客とは違う質の交流を都市にもたらします。2016年5月には、福岡でライオンズクラブ世界大会が開催され、この間市内のいたるところで外国人をみかけたことは記憶に新しいでしょう。MICEの一つである国際会議件数を9都市で比較してみると、バルセロナが年間180件と最も多く、それに他の欧州諸都市とメルボルン、バンクーバーが続いています。福岡は、前回の23件から30件に増加しましたが、他都市よりまだ低い数値となっています。今後もMICE誘致が進めば、福岡の国際的な知名度の向上に寄与するでしょう。
空の玄関口の果たす役割
国際的な人口流動は、航空機による輸送が主流を担っています。都市の国際的な交流には、国際空港は必須です。9都市の国際空港の機能を比較します。旅客数や直行便就航都市数を比較すると、空港の性格のみならず、その都市の性格も見えてきます。例えば、旅客数を見ると、欧州は全都市で国際線旅客数が国内線のそれを大きく上回っています。メルボルン、シアトル、福岡では国内線旅客数の割合が大きく、釜山とバンクーバーでは両者が拮抗しています。直行便就航都市数を見ると、欧州各都市及び釜山、バンクーバー、福岡で同大陸内国際線の割合が大きく、一方でメルボルンとシアトルでは国内線の次に大陸間国際線が多いことが分かります。欧州各都市は世界中からの観光客に加えEU圏内での交流も活発です。メルボルン、シアトル、福岡は、その国の中での人口流動が多くなっています。また、釜山、バンクーバー、福岡では、同大陸内でのハブ空港化が進んでいるようです。滑走路の本数に関しては、福岡以外の全ての空港で複数本整備されていることが分かります。2024年には2本目の滑走路が完成する福岡空港ですが、それに留まることなく、今後の更なるグローバルな人口流動の増加に備えて、現在の圧倒的な利便性を確保しつつもハブ空港としての機能を強化していく必要があります。
海の玄関口の果たす役割
海の玄関口は、物流の中心であるとともに、海外からのお客様を呼び寄せるハブとなります。港がないミュンヘンを除く8都市の港湾コンテナ取扱量を見ると、釜山が飛び抜けています。釜山は世界水準で上海や香港、シンガポールなどに次いで第6位の取扱規模を誇っており、この点では他都市とは一線を画しています。シアトルも、2015年にシアトル港と隣港のタコマ港が経営統合されたことで、数字を伸ばしました。シアトルとメルボルンは、それぞれの国内でのハブ港湾にとしても機能しています。福岡は、ストックホルム、ヘルシンキに次いで少ないコンテナ取扱量となっています。次に、クルーズ客船乗降人員数を比較すると、福岡はここではバルセロナに次いで9都市中2位となっています。その数は年間100万人を超えるもので、これは近年の中国からの爆買い客を乗せたクルーズ客船の急増によるものです。。昨今では、中国人観光客の志向もモノからコトへと変化しているようですが、この変化に対応し、今後も海外からのクルーズ客船の寄港数を伸ばしていくことが期待されます。
以上、如何でしたか?
ここまで、合計64の指標にもとづく9都市の比較を行いました。
引き続き、これらのデータをもとに、「生活の質」と「都市の成長」の2分野での各都市のスコアの集計を行います。
福岡は、9都市のなかでどのようなポジションになるのでしょうか?
その結果は、2017年3月末に発行予定の報告書にて明らかにされます。
どうかご期待ください。