REPORT
刊行物・研究報告
総合研究
2014.03.12
「文化産業」振興における日中都市間協力に関する研究
趣旨目的
中国では文化産業の振興が国策として導入されてから、多くの地方政府はそれを次世代の地域基幹産業に位置づけ、さまざまな施策を展開してきた。近い将来、中国は着実に世界の文化貿易大国に成長すると思われるので、デザインやコンテンツ産業の振興を推進してきた福岡にとって、この機会をとらえ、関連する領域で競争しながら協力を強化することができれば、アジアの活力を取り入れて地域を繁栄させることにつながる。
本研究は、中国の沿海部主要都市が導入している「文化産業」振興策の内容と実施体制を調査し、それぞれの特色を明らかにしたうえで、各都市における国際協力の現状とポテンシャルを明らかにするとともに、福岡・九州による参画の可能性と仕組みを考察する。
日中都市間協力によって「文化産業」の振興に取り組んでいくことは、ビジネスの領域を広げるだけでなく、日中両国の若い世代の交流を促進し、相互信頼の回復にも寄与しうると思われる。
研究内容
本研究は、中国の文化産業振興策の内容と実施体制を調査し、その特色を明らかにするとともに、福岡・九州による参画の可能性を探ることを目的に行われてきた。地元福岡の研究者をはじめ、関西地域、中国を代表する北京、上海の研究者による共同研究を通して、中国における文化産業(創意産業とも言う)振興の現状、問題点、そして特色が明らかになり、福岡が今後取り組むべき課題も析出された。
具体的には次の4点にまとめることができる。
1.中国の文化産業において、行政主導による計画性の高い振興策が実施されている。国の基本計画(5カ年計画)をはじめ、各地域の総合計画においても文化産業を重視する方針が確立され、産業パーク建設を中心とした一連の優遇政策が集中的に導入されている。また、政府が具体的な目標を定め、関係部局からなる横断的な組織機構を持ってその実現に取り組んでいる。上海などの先進地域では「創造都市指数」を開発し、文化産業と「創造都市」を結びつける動きも活発化している。
2.文化産業を振興させるために公共サービスの機能向上が不可欠と考えられているので、産学官共同による各種プラットフォームの構築が進められている。特に上海では創意産業センターと創意産業協会が設立され、その傘下に情報ネットワーク、投資コンサルティング、知的所有権の保護と取引、人材育成、各種展示・取引、研究開発設計及び国際交流といった7つの公共サービス・プラットフォームが重点的に整備され、産業育成のテコとして活用するとともに、海外企業が中国文化産業市場に参入する窓口ともなっている。
3.中国ではグローバル的に文化産業を振興しようとする姿勢が明確であり、産業計画策定における海外経験の吸収や産業パークへの海外企業の誘致などが積極的に行われている。また、全国各地で文化産業関連の大型展示会や商談会が年間数多く開催され、国際的に有名な専門家や企業関係者が中国の参加者とビジネス交流を図っている。国際的なイベントの開催は、海外とのビジネス交流の場を増やすとともに、文化産業振興の気運を高める効果も期待されている。
4.急成長する中国の文化産業は福岡にとって良い意味での刺激になる。隣接する中国の文化産業市場に新たな活路を見いだすために、福岡は当面次のような課題に取り組む必要がある。1)福岡の文化産業に関する情報ネットワークの強化、2)大学と連携した人材育成と人脈づくりの促進、3)コンテンツ産業と観光業の連携など集客経済の効果を高める方策の模索、4)歴史的建造物を活用するといった、その都市固有の文脈に沿った地域開発やまちづくりを進める手法の採用。
研究体制
橋爪 紳也 ( 座長 ) 橋爪紳也研究室主催、建築史家/都市計画家
西山 徳明 九州大学大学院芸術工学研究院環境計画部門 教授
倪 宝栄 福岡工業大学工学部生命環境科学科 教授
唐 寅 福岡アジア都市研究所 主任研究員
陳 少峰 北京大学 文化産業研究院 副院長 教授
花 建 上海社会科学院文学研究所 研究員
研究期間
平成19年4月~平成20年3月
担当
唐 寅 主任研究員 ※研究責任者
陶山 靖 事務局長