「第3極」の都市 2018
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2019.12.28

「第3極」の都市 2018

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ごあいさつ

当研究所は2014年度、福岡と類似性を有している、首都・経済首都でなくメガ・シティでもない5つの都市、シアトル、バンクーバー、メルボルン、ミュンヘン、バルセロナのグローバル競争力を福岡と比較し、その研究成果を『「第3極」の都市』として公表しました。

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2016年度には、福岡と同じくIRBC(国際地域ベンチマーク協議会 ※)に所属するストックホルム、ヘルシンキおよび玄界灘を介した福岡の姉妹都市、釜山を加えた8都市を福岡とともに評価した『「第3極」の都市plus 3』を発行しました。

本調査の5年目となる2018年度は、福岡、シアトル、バンクーバー、メルボルン、ミュンヘン、バルセロナ、ストックホルム、ヘルシンキ、釜山の9都市を改めて『「第3極」の都市』と規定し、各都市の比較をもとに福岡のグローバルなポジションの推移を追っていきます。

福岡市は、2014年の国家戦略特区指定以降、「グローバル創業都市」を目指した改革に取り組んできました。5年間の取り組み成果を総括するうえでも、本調査がさまざまなステークホルダーの皆さまのお役に立つことを祈念しています。

※2008年ー2018年6月、シアトルを本部として活動

公益財団法人福岡アジア都市研究所
フェロー 久保隆行(立命館アジア太平洋大学准教授)
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01.「生活の質」と「都市の成長」を両立させる都市「第3極」の都市とは?
世界には多くの「グローバル都市」が存在します。これら「グローバル都市」の多くは、ロンドンや東京のような主要国家の首都、ニューヨークやトロントのような経済的な首都、上海やムンバイのような世界有数の巨大都市です。これら都市には、世界から多くの投資が集まり、人口集中および都市機能の集積が進むため、グローバルな競争力は高まります。
一方、人口が過度に集中することなく、コンパクトな都市構造を維持しながら、「生活の質」において高い評価を受ける「グローバル都市」が世界に複数存在します。
当研究所は、福岡を含むこれらの都市を、「第3極」の都市と規定し、これまで調査を進めてまいりました。
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2016年度の福岡の総合評価
本調査では、「生活の質」と「都市の成長」の2つの評価軸を設定し、それぞれの評価軸に応じた指標にもとづいて、9都市の相対的なポジションをスコアによって示しています。9都市のなかでの福岡のポジションは、2016年度において図のように位置付けられました。「生活の質」においては、福岡はバルセロナを除く他都市と同等の水準にあるといえます。その一方で、「都市の成長」において福岡は9都市中最も低いスコアとなり、他都市との格差が浮き彫りとなりました。
福岡の当面の課題は、「生活の質」を維持しながら、「都市の成長」にかかわる指標値を持続的に向上させることだといえます。ThirdAxis2018_01_figure04_tmb
MONOCLE「世界で最も住みやすい都市ランキング」福岡の順位推移
福岡の「生活の質」のグローバルな評価を他機関の観点から改めてみてみましょう。
英国MONOCLE誌は、世界の都市の「生活の質」を評価しランク付けする「世界で最も住みやすい都市ランキング」を毎年公表しています。ここでは、福岡の2010年から2018年にかけての順位を追ってみました。図にあるように、福岡の順位は2016年にかけて上昇し、以降急速に下落しています。
2016年には世界7位まで上り詰めた福岡に何が生じたのでしょうか?福岡は近年、「生活の質」を維持できていないのでしょうか?ThirdAxis2018_01_figure05_tmb
2018年MONOCLE「生活の質」評価のポイント
福岡の「生活の質」の近年の急速な下落は、MONOCLEによる「生活の質」の評価手法の変更にあるようです。
MONOCLE(No.115)によれば、「生活の質」を評価する合計60以上からなる指標について、今年は新たに「都市の変化」にかかわる評価項目を追加したとのことです。たとえば、その都市は増加する人口に対してどのように公共交通サービスを充実させているか?新しく移ってきた住民や観光客が満足できるサービスを提供できているか?といった項目です。
このような観点から、福岡については、「上海・台北・香港から至近距離にある日本の完璧なハブとして位置付けられているものの、在留許可や法人設立においては首都である東京に依存しているため、必ずしも迅速な対応ができていない(p.28)」と厳しめの指摘がなされています。さらに、「福岡はクルーズ船やエアラインによる観光客の記録的な受け入れには成功しているものの、市民や企業のニーズには対応しきれていない(p.73)」と批評されています。ThirdAxis2018_01_figure06_tmb
「都市の成長」が「生活の質」を牽引
当研究所においても、2016年度『「第3極」の都市plus 3』において、「2014年以降、福岡のインバウンドにかかわる指標の多くが大幅に伸長し、都市の成長に一定の寄与を示したものの、今後の課題は、企業や人材のグローバルな展開力を示すアウトバウンド指標の上昇にある(p.102)」と指摘しています。福岡に居住する人材や企業のグローバルな競争力を高めると同時に、域外から福岡での起業をさらに促進することが求められます。
図は、MONOCLE「2018年世界で最も住みやすい都市ランキング」に掲載されている各都市の順位と「豊かさ」を示す一人当たりGDPを散布図に表示したものです。順位の高さと一人当たりGDP(豊かさ)には直接的な相関性は見られませんが、何れの都市も福岡よりも豊かであることがうかがえます。
より働きやすく、成果の出しやすい都市づくりによって「都市の成長」を促進することは、「生活の質」をも向上させていくに違いないでしょう。ThirdAxis2018_01_figure07_tmb
「生活の質」と「都市の成長」の両立を目指して
当研究所では、2018年度『「第3極」の都市』を、これまでと同様に「生活の質」と「都市の成長」の2つの評価軸に分けて、福岡を含む9都市の評価を行います。
福岡市基本構想に示されているように、福岡はアジアの交流拠点都市としてすでにMONOCLEのようなグローバルな誌面から認知されています。福岡はこの2年間、アジアの交流拠点都市にふさわしい「都市の成長」を遂げてきているのか?それと同時に、世界有数の住みやすい都市としての「生活の質」を維持できているのか?
当研究所のアップデートをどうかご期待ください。ThirdAxis2018_01_figure08_tmb

バックナンバー: http://urc.or.jp/category/research_publication/publication/cities-on-the-third-axis-2018


02.「都市の成長」と環境影響1. CO2の排出にかかる都市の役割の拡大
2018年12月、ポーランドのカトヴィツェにて国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)24が開催されました。近年のCOPでとりわけ強調されるのが、自治体や企業などの「非国家主体」の役割の拡大です。2015年に開催されたCOP21では、2020年以降の気候変動抑制に関する国際的な枠組みとなる「パリ協定」が合意されました。しかし、国連環境計画(UNEP)の報告によると、「パリ協定」のもと、各国が自発的に提出した国別約束(NDCs)の削減総量は、2030年までに必要な世界的な削減量の3分の1に過ぎません。このため、自治体や企業等による大幅かつ早急な削減が必要であることが指摘されていますi。こうした中、2017年1月には、世界7,494自治体が参加した気候変動とエネルギーに関する「世界首長誓約」が発足し、同年11月には、自治体首長による気候サミット「ボン・フィジー宣言」が採択され、自治体のコミットメントが高まってきていますii。世界首長誓約には、現在、世界9千超都市、国内18都市が賛同しています(図1)。「第3極」の都市の中では、シアトル、バンクーバー、メルボルン、ミュンヘン、バルセロナ、ストックホルム、ヘルシンキが賛同を示しています。

図 1 世界首長誓約の誓約都市(2018年12月現在)

2. 福岡市の役割と「デカップリング」
福岡市では、今後さらに2030年までに人口160万人を超えることが予測されています。国内他都市に例を見ない人口増や事業体の集積の現状は、『Fukuoka Growth』シリーズや『福岡市における生産年齢人口の減少を見据えた施策展開に関する研究』等のURCの刊行物や他多くのメディアを通じて伝えられてきています。未だ成長を見せる福岡市において、都市が気候変動に与える環境影響は他人ごとではありません。福岡市は、主に九州他県他都市から人口が集まる都市でありiii、九州地域の成長をけん引しつつ、環境負荷の軽減を進めていくことが求められます。

こうした、経済の成長と環境負荷低減を実現するという概念は「デカップリング」と呼ばれます。デカップリングとは、一定の経済成長や生活の質、利便性を維持しつつも、エネルギーの消費を減らしていく、「成長」と「消費」の切り離しを行うという考え方です(図2)。


図 2 経済成長と環境への影響を切り離す「デカップリング」

すでに環境先進国ドイツでは、1990年代からデカップリングを達成してきており(図3)、国際エネルギー機関(IEA)によると、世界的にも2010年を過ぎたあたりからその予兆とも言える傾向が示唆されてきています(図4)。つまり、経済が成長してもCO2の排出量は増加しない、あるいは増加が和らいできているといえます。その理由として、再生可能エネルギーの台頭や石炭から天然ガスへの切り替えなどが挙げられています。


図 3 ドイツのデカップリングの状況(内閣府国家戦略)


図 4 世界のCO2排出量および経済の増減率


図 5 福岡市CO2排出量および市内総生産の増減率

IEAの示す同じ方法で福岡市の傾向をみてみると、2012年ごろまではCO2排出と経済成長の増減率に同調の傾向が見られますが、それ以降の動きに両者のかい離が見られます(図5)。福岡市でも世界全体の傾向と同様に「デカップリング」が起こりつつあるように見えますv。2014年度以降のCO2排出量の減少については、省エネ型機器の利用やオフィスビルの省エネ化等、市民や事業者の環境に配慮した取り組みの効果ならびに電気事業者の電源構成の変化に起因すると見られていますvi。これをデカップリングの兆候と見るかどうかについては、今後の傾向を注視していく必要がありますが、こうした取り組みを継続するとともに、さらに革新的な姿勢で臨むことで、デカップリングの実現に向かうと考えられます。
さらに、国内では、パリ協定を踏まえ、2050年までにCO2の80%削減を実現するためには、一人あたり9トンの国内CO2排出量(2015年時点)viiを約2トンに抑える必要があるとされていますviii。福岡市の一人あたり排出量は5トン前後を推移しておりix、今後さらに、私たち一人一人に削減への取り組みを進めていくことが求められています。

※第3極の都市9都市のCO2排出量は、『「第3極」の都市plus 3』(P.63)をご参照ください。

3. 新たな国際競争力~リーダー都市としての役割
これまで「第3極の都市」シリーズでは、福岡市の強みの一つである国際化に関する指標が伸びていることを示してきました。例えば、国内・国際線の年間旅客数や国内外の就航都市数、滑走路の本数等です(『「第3極」の都市plus 3』(2017年3月31日発行)P.88および『「第3極」の都市』(2015年3月31日発行)P.78)。しかし、上述のような国際的動向から見ると、年間旅客数や就航都市数とは別に、持続可能な都市としての“国際度”の測り方も検討していく必要があるでしょう。

例えば、空港カーボン認証というものがあります。空港カーボン認証は、ヨーロッパ国際空港評議会(ACI)によって任命された第三者組織の検証により、空港をカーボン管理基準に基づき4つのレベルで評価します(図6)。2009年に欧州地域で運用が開始され、2011年に日本が属するACIアジア太平洋地域に導入され、2014年には全世界地域に拡大されました。

図 6 空港カーボン認証(Airport Carbon Accreditation)の評価レベル

国内では、2018年12月までに、既に4つの空港が空港カーボン認証を取得しています。2016年12月に関西国際空港(KIX)と大阪国際空港(ITM)が国内で初めて空港カーボン認証(レベル2)を取得しましたx。2018年11月29日には、成田国際空港が国内初の認証レベル3を取得しましたxi。12月6日には、前2空港もレベル3へアップグレードし、神戸空港も同認証レベル2を新たに取得しましたxii。さらに、「第3極」の都市のうちにおいては、7都市の空港が認証を取得しています(表1)。

表 1 各都市の空港カーボン認証取得状況

現在、福岡空港では、第2滑走路の増設が進められています。それに伴い、今後ますます国内外から福岡市を訪れる人たちが増加し、都市の経済成長もさらに促がされると予測されます。
空港カーボン認証のような新たな指標も視野に入れつつ、環境影響に配慮した都市の成長のあり方を模索していくことが重要となってきます。福岡市は、アジアのリーダー都市として、アジア諸都市ならびに九州の他都市に先駆けて、持続可能な都市の成長の姿を示していくことが期待されます。持続可能な社会をつくる一員として、九州あるいはアジア全体のデカップリングに向けた取組みにつなげていくことが求められます。

(テキスト:研究主査 菊澤育代)

i. UNEP: Emissions Gap Report 2017: Governments, non-state actors must do more to reach Paris Agreement https://www.unenvironment.org/news-and-stories/press-release/emissions-gap-report-2017-governments-non-state-actors-must-do-more
ii. 内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)エネルギー・環境担当「政策討議「環境エネルギー・水素戦略」補足説明資料」(平成30年1月18日)https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20180118/siryo2.pdf
iii. Global Covenant Citiesのグローバル事務局ウェブサイトに掲載の日本国内の誓約都市リストに、2019年1月に新たに誓約都市となった京都市を含め18都市(日本事務局のウェブサイトには、2019年1月現在、2018年の国内事務局開設以降に誓約自治体となった自治体のみ表示されている)
iv. 2017年度URC総合研究『福岡市における生産年齢人口の減少を見据えた施策展開に関する研究』(P.21)にて、九州全土からの若い世代の流入が著しいことが示されている
v. 世界のCO2排出量は、農商工業すべての産業が含まれることに留意する必要がある
vi. 福岡市(2018)「福岡市地球温暖化対策実行計画の進捗状況について【2018年版】」
vii. 全国地球温暖化防止活動推進センター「3-2世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合と各国の一人当たりの排出量の比較(2015年)」
viii. 環境省「我が国の温室効果ガス排出量及び炭素・エネルギー生産性の現状等(第2回検討会(平成29年7月10日)資料【資料3】https://www.env.go.jp/press/conf_cp02/mat03.pdf
ix. 福岡市(2018)統計表「平成13年度~平成17年度」市内総生産&「平成18年度~平成27年度」市内総生産,福岡市(2018)「福岡市地球温暖化対策実行計画の進捗状況について【2018年版】」から算出
x. 関西エアポート株式会社Press release(2016年12月14日)http://www.kansai-airports.co.jp/news/2016/2468/KIXandITM_ACA.pdf
xi. 環境ビジネスオンライン(2018年11月30日)成田国際空港、CO2削減で「空港カーボン認証」レベル3を取得https://www.kankyo-business.jp/news/021586.php
xii. 関西エアポート株式会社Press release(2018年12月6日)http://www.kansai-airports.co.jp/news/2018/2660/J_181206PressRelease_ACA.pdf

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