06.「2017年」都市占い
あけましておめでとうございます。
本年も皆様にとって幸多き一年になりますようお祈り申し上げております。
さて、URCでは昨年からIRBCに関連する9都市を、最新データを基に比較してきました。その分析も今回で最後となります。様々な指標を通して、9都市の強みと弱み、現在の立ち位置と今後の展望などをお伝えすることが出来ておりましたら幸いです。2017年は9都市にとってどのような一年になるのでしょうか。
今回は、「第3極」の都市の評価軸のひとつである「都市の成長」のうち、「イノベーション・交流」にかかわる指標を比較します。
イノベーションの成果をあらわす特許
特許申請数はその都市の知識集積を示し、イノベーション力を計る基準になります。百万人あたりの特許申請件数を見てみると、北欧2都市とミュンヘン、シアトルが突出しています。これらの都市は、新進気鋭の起業家・技術者が集い、最新の技術やビジネスを生み出している中心となっているようです。福岡は、残りの都市の中では最も特許申請数の多い都市となっています。しかしながら、上位の都市群と競合するレベルになるためには、件数を少なくとも2倍に伸ばさなければなりません。
イノベーションの一翼を担うアントレプレナー
起業文化がどれほど社会に根付いているか、これは都市の今後を占う最重要項目でしょう。9ヶ国の新規開業率を比べてみると、韓国が最も多くなっており、北欧の2ヶ国やスペイン、オーストラリアがそれに続いています。9都市の中でも、特に、ストックホルムは、最近では世界に名の知れたスタートアップ拠点となっています。米国ブルッキングス研究所の最新レポート*でも、米国外ではチューリッヒと並んで唯一、「知識創造中心都市」との評価を受けています。直近の例でいえば、世界でトップシェアを誇る音楽系オンラインサービスのSpotifyやSoundCloudもストックホルム発です。このデータを見ても、日本には起業文化がまだまだ根付いていないと言えます。隣国韓国と比べると、その差は歴然です。
* “Redefining Global Cities.” Brookings. 29 Sept. 2016. https://www.brookings.edu/research/redefining-global-cities/
流動化する企業を法人税で魅了できるか
ここで9都市が属する各国の法人税実効税率を比較してみましょう。中央政府と地方政府を合わせた率で見てみると、アメリカが38.9%と最も高く、日本、オーストラリア、ドイツが30%に近い水準でそれに次いでいます。9ヶ国で最も低いのは北欧の2ヶ国です。昨今の法人税減税の議論においても、果たして法人税減税が国内外からの投資を促すのかということが取り沙汰されています。産業転換とイノベーションが進むスウェーデンやフィンランドに倣ってその水準にまで税率を下げれば、国内の設備投資や海外からの投資は進む可能性はあります。しかし、この2ヶ国が外国人材への魅力を増す政策を長い間試行錯誤してきたのに対し、日本はその点においては未だ整備が進んでいないことが問題です。法人税率が高い国と低い国、それぞれの狙いを検討した上で、日本の長期的ビジョンが策定された上でないと、この議論は行き着く場所のないものとなってしまうでしょう。
イノベーティブな人材を輩出する大学
それぞれの都市の地場産業に最も影響を与える要素は、その都市にある大学の先進性と卓越性ではないでしょうか。最近のベンチャー企業の中には、大学からのスピンオフ起業も多くあります。QS世界大学ランキングに基づいて9都市の有する大学を比較してみると、その数や順位には差があります。まず存在感を示すのが、メルボルンでしょう。最新の大学ランキング500位以内に入る大学が8校もあります。そして、その中の最上位校であるメルボルン大学は、9都市が擁する諸大学の中でも最上位校となっています(全世界42位)。8校の中には工科大学が2校あり、総合的な強みもうかがい知れます。バンクーバー、シアトル、ミュンヘンは70位以内の世界的有名大学を擁するものの、ランキングに掲載されている大学数は1~2と多くありません。一方、バルセロナは最上位校の順位は低いものの、ランキング掲載校は4校あります。北欧2都市には、150位以内が2校ずつあります。福岡は九州大学の1校のみで135位となっています。
ダイバーシティはイノベーションを加速させる
日本は、民族構成という基準で見れば、世界で最も多様性の低い国家の一つです。昨今のグローバリゼーションの中で、そうした日本の多様性の低さが、今後の日本の弱みになるという議論があります。多様な価値観の交流からイノベーションが生まれるという考え方に基づいてです。この考えが必ずとも真とは限りませんが、国際的な民族性多様化の流れを止めることは難しいのも事実です。現時点での、9都市の外国生まれ居住者割合を比較してみると、バンクーバーとメルボルンで市人口の3人に1人、ストックホルムとミュンヘンで4人に1人が外国生まれとなっています。移民大国アメリカのシアトルは18%と約5人に1人となっています。一方、福岡は1.9%で、釜山と並び最下位です。次に留学生比率を見ると、福岡はここでは善戦しています。九州大学の全学生の11%が留学生で、前回(2013年調査)より2%増えました。9都市の諸大学でも全体的に留学生比率は増え続けていますが、九州大学もこのペースを保てば、イノベーションの源としての役割を十分に果たせるはずです。
国内外からのお客様との交流機会
国内外からの訪問者数で9都市を比較します。昨年の最新データを基にし、前回(2009年調査)と見比べてみると、シアトルの急激な伸びがよく分かります。前回と比べて2倍強の伸びを示しています。そして、訪問者数のほとんど(約97%)が国内からとなっていることも特徴です。アマゾン・ドット・コムやその他の新興IT企業の成長がビジネス客の増大に貢献するとともに、国内向けの観光政策が成功を収めていることがその要因と考えられます。この交流機会の増大によって、シアトルが更なる発展を遂げる可能性は高いでしょう。メルボルンやミュンヘンも、国内からの訪問者数が前回から10~15%ほどの伸びを示しています。一方で、バルセロナでは内需の落ち込みからか前回より40%ほど国内からの訪問者数が減少しています。福岡については、国内からの訪問者数は若干減少しているものの、国外からの訪問者数は前回の2倍ほどに伸びています。この伸びは9都市中でも突出しています。日本国内の人口、経済規模が縮小し続けることを考えれば、もインバウンド政策は今後も福岡の重点政策として推進する必要があるといえます。
MICEを主導する国際会議
MICE (Meeting, Incentive tour, Convention/Conference, Exhibition)の開催によって、都市には異文化と活気が短期的に大量に流れ込みます。単なる観光やビジネスの旅客とは違う質の交流を都市にもたらします。2016年5月には、福岡でライオンズクラブ世界大会が開催され、この間市内のいたるところで外国人をみかけたことは記憶に新しいでしょう。MICEの一つである国際会議件数を9都市で比較してみると、バルセロナが年間180件と最も多く、それに他の欧州諸都市とメルボルン、バンクーバーが続いています。福岡は、前回の23件から30件に増加しましたが、他都市よりまだ低い数値となっています。今後もMICE誘致が進めば、福岡の国際的な知名度の向上に寄与するでしょう。
空の玄関口の果たす役割
国際的な人口流動は、航空機による輸送が主流を担っています。都市の国際的な交流には、国際空港は必須です。9都市の国際空港の機能を比較します。旅客数や直行便就航都市数を比較すると、空港の性格のみならず、その都市の性格も見えてきます。例えば、旅客数を見ると、欧州は全都市で国際線旅客数が国内線のそれを大きく上回っています。メルボルン、シアトル、福岡では国内線旅客数の割合が大きく、釜山とバンクーバーでは両者が拮抗しています。直行便就航都市数を見ると、欧州各都市及び釜山、バンクーバー、福岡で同大陸内国際線の割合が大きく、一方でメルボルンとシアトルでは国内線の次に大陸間国際線が多いことが分かります。欧州各都市は世界中からの観光客に加えEU圏内での交流も活発です。メルボルン、シアトル、福岡は、その国の中での人口流動が多くなっています。また、釜山、バンクーバー、福岡では、同大陸内でのハブ空港化が進んでいるようです。滑走路の本数に関しては、福岡以外の全ての空港で複数本整備されていることが分かります。2024年には2本目の滑走路が完成する福岡空港ですが、それに留まることなく、今後の更なるグローバルな人口流動の増加に備えて、現在の圧倒的な利便性を確保しつつもハブ空港としての機能を強化していく必要があります。
海の玄関口の果たす役割
海の玄関口は、物流の中心であるとともに、海外からのお客様を呼び寄せるハブとなります。港がないミュンヘンを除く8都市の港湾コンテナ取扱量を見ると、釜山が飛び抜けています。釜山は世界水準で上海や香港、シンガポールなどに次いで第6位の取扱規模を誇っており、この点では他都市とは一線を画しています。シアトルも、2015年にシアトル港と隣港のタコマ港が経営統合されたことで、数字を伸ばしました。シアトルとメルボルンは、それぞれの国内でのハブ港湾にとしても機能しています。福岡は、ストックホルム、ヘルシンキに次いで少ないコンテナ取扱量となっています。次に、クルーズ客船乗降人員数を比較すると、福岡はここではバルセロナに次いで9都市中2位となっています。その数は年間100万人を超えるもので、これは近年の中国からの爆買い客を乗せたクルーズ客船の急増によるものです。。昨今では、中国人観光客の志向もモノからコトへと変化しているようですが、この変化に対応し、今後も海外からのクルーズ客船の寄港数を伸ばしていくことが期待されます。
以上、如何でしたか?
ここまで、合計64の指標にもとづく9都市の比較を行いました。
引き続き、これらのデータをもとに、「生活の質」と「都市の成長」の2分野での各都市のスコアの集計を行います。
福岡は、9都市のなかでどのようなポジションになるのでしょうか?
その結果は、2017年3月末に発行予定の報告書にて明らかにされます。
どうかご期待ください。