
05.トランプショックを乗り越えて
Brexitに続き、アメリカでは、トランプ大統領が現実となりました。世界の力の均衡が、新たな形を模索しているようにも見えます。より混沌とする現代でも、都市は着実に成長する必要があります。いま現在保有するリソースをいかに向上・活用し、生産力を上げていくか、これに成功した都市が時機を掴むでしょう。しかし、現有のリソースに固執すれば、産業転換に失敗し、あっという間に凋落してしまう可能性もあります。非常に難しい舵取りを求められている中、「第3極」の都市plus3に選定された諸都市の現状を考察してみましょう。
今回は、「第3極」の都市の評価軸のひとつである「都市の成長」のうち、「リソース・生産力」にかかわる指標を比較します。
世界で増え続ける観光客を魅了せよ
都市に人を引き付ける観光業。日本国内でもインバウンド取り込みに各自治体が躍起になっています。ここでは、9都市の観光資源に注目してみましょう。バルセロナは、世界遺産数、TripAdvisor上の観光資源数ともに他都市を圧倒しています。ヨーロッパの他都市と比べても、その差は歴然です。ストックホルムは9都市で唯一、市内から10km圏内に2ヶ所の世界遺産が存在しており、観光集客に寄与していると考えられます。シアトルの観光資源数は、バルセロナに次ぐ数となっており、昨今の観光都市化がみられます。福岡は、「第3極の都市」2014年度版と比較して、観光資源数が格段に増えています。これには、福岡を訪れた外国人観光客が、TripAdvisorの福岡のページを豊かにしていることが理由として考えられます。昨年世界遺産に登録された三池炭鉱に代表されるような観光地の国際化が進むにつれ、福岡の魅力が徐々に海外に発信され始めているようです。因みに、釜山、ミュンヘン、バンクーバー、シアトル、福岡の各都市には市内に世界遺産が存在しません。しかしながら福岡は5都市の中でも観光資源数が2番目に多く、今後のポテンシャルは十分にあるといえます。
都市に滞在するための必須アイテム
観光客の増加に応じて、宿泊施設の需要は高まります。ホテル件数を見ると、ここでもバルセロナは最も多く、メルボルンが次いでいます。メルボルンは、観光だけでなく、オーストラリアの経済都市として、ビジネス面での宿泊需要の多さも関連していると思われます。五つ星ホテルも25件と、31件のバルセロナに引けを取りません。次いでシアトルと釜山が並びますが、この2都市は3つ星、2つ星ホテルの割合が大きいことが特徴です。福岡は、この指標においてはヘルシンキと最下位を争っています。福岡にとって、観光客受け入れ規模拡大のための宿泊施設の整備は喫緊の課題であることに変わりありません。
芸術との接触によって都市の文化度を磨く
ここで見るのは、博物館や美術館、劇場などの文化施設の数です。ここでもバルセロナが際立っています。それにシアトル、バンクーバー、ストックホルム、ミュンヘンなどの北米・欧州の各都市が連なっており、やはり文化面での強さを感じさせられます。また、メルボルンやバンクーバー、シアトルなどは、文化施設数全体に占めるシアターの数が多く、ミュージカルやコンサートなどの文化体験の機会を市民が豊富に有していることが分かります。北米や豪州では、欧州の伝統を継ぐハイカルチャーと当地で発展したポップカルチャーの両方が良い影響を与え合え、共栄している印象を受けます。そして、ここでも福岡の文化施設の少なさが目立ちます。文化施設は、都市のクリエイティビティの向上にも繋がる大事な要素ではないでしょうか。福岡の文化面の環境がより整備されると、様々な面で波及効果が生まれるはずです。
食も都市の重要な文化である
食の面では9都市にどのような違いが見られるのでしょうか。TripAdvisorにて評点が付与されているレストランの数を比べてみると、最も多いバルセロナに次いで、福岡が抜きん出て多いことが分かります。3番目に多い釜山よりも2,000軒ほど多くなっています。1,000件程度と最も少ないヘルシンキを除いて、他の都市は2,500件前後にまとまっています。スペイン料理も日本料理も世界的に人気が高まり、当地で消費されるだけでなく世界中で食される文化として根付いています。それに伴い、観光客が本場の味を求めて当地を訪れるケースも増えています。福岡の特徴として食が挙げられるということは、国外ではまだあまり知られていません。しかし、とんこつラーメンはその豊かな風味が外国人に受け、北米や欧州、東アジアを中心に世界中で圧倒的に認知度が高い食品となっています。明太子は、魚卵を忌避しがちな外国人にもその味が大きな人気を博しています。これら福岡発祥の味の魅力をPRし、外国人をさらに惹きつけることが期待されます。
都市に活気をもたらすスポーツ
市民を熱狂させる地元のスポーツチーム。その本拠地となり、オフシーズンにはコンサート会場にもなる、重要な市民のモビリティのホットスポットであるドーム・スタジアムの数を比べてみましょう。ここでは、メルボルンが最多で、シアトルがそれに次いでいます。メルボルン、シアトル共に各人気競技の大規模スタジアムが競技毎にバランス良く整備されており、市民へのスポーツ文化の普及が見受けられます。釜山、ストックホルム、バルセロナはスタジアム数が充実しているものの、サッカー・野球などの人気競技への偏りが見られます。福岡は、ヘルシンキ、ミュンヘン、バンクーバーと並んで、3ヶ所と最も少ないようです。オリンピックの開催実績では、それぞれ一度開催したことのある5都市が、他の4都市と比べて大きな存在感を放っているといえます。昨今の五輪は、その経済効果に疑問が投げかけられていますが、知名度向上の効果は計り知れません。東京五輪においても東北地方などでの分担開催が取り沙汰されています。アジアに近い福岡は、将来的には海外都市との共催も視野に検討してみてはどうでしょうか。
ブランド化した都市の名前
Googleで検索されるということは、その都市への関心・興味を如実に反映する指標です。それぞれの国の言語で都市名をキーワード検索し、ヒットした数を9都市にて比較してみると、バルセロナがここでも最多となっています。人々のバルセロナへの関心の高さは群を抜いているといえます。都市の名が入ったスポーツチームやランドマークなどにも影響されるのは事実ですが、それらも含めた上で都市の存在感は形成されます。欧米の各都市では各言語でバランス良くヒット数が揃っていますが、福岡と釜山では自国語でのヒット数が目立ちます。この2都市は、特に国外へのアピールが課題であるといえるでしょう。
豊かな人材によって都市は豊かになる
都市の生産力について、ここでは労働力人口が人口に占める割合と、労働力人口の増加率を比較します。労働力人口割合では、最大のストックホルムと最小の釜山との間に約10%もの差があります。ヨーロッパで最も平均年齢の若い都市の一つといわれるストックホルムと、少子高齢化と若者の流出が進む釜山との対比は鮮明です。しかしながら、福岡も楽観視できません。9都市中、労働力人口割合が50%を切っているのは釜山と福岡だけです。労働力人口増加率が0.5%というのは、日本国内で見れば高い水準ですが、世界の同等の都市と比較すると労働力人口の少なさが目立ちます。
労働者の教育水準の高さは生産性に直結します。労働者に占める高校卒以上の割合を比べてみると、バルセロナが属するカタルーニャを除いた全地域が、80%を超える高い水準を示しています。スペインでは、高等教育に進む若者が少ないことが社会問題化していますが、その他の8都市ではその傾向は見られないようです。
都市の力を牽引する企業
都市の経済成長の根幹といえる大企業の実態を見てみましょう。ミュンヘンとメルボルンには、Fortune 500に掲載されている国際的な大企業がそれぞれ4社ずつあります。ミュンヘンには、アリアンツやミュンヘン再保険などの保険業界のトップ企業の本社に加え、BMW、シーメンスといった製造業の巨人企業の本社があります。かたや、メルボルンにはオセアニア地域最大手の2つの銀行の本店があります。これらから両都市の経済的な強さを見て取ることができるのではないでしょうか。シアトルでは、二年前のFortune 500では104位だったマイクロソフトが63位に上昇しましたが、112位だったアマゾン・ドット・コムは44位にまで順位を急激に伸ばし、マイクロソフトをあっさりと抜き去ってしまいました。シリコンバレーを筆頭に、アメリカ西海岸の都市では、世界最先端のイノベーション競争が繰り広げられています。福岡の最大企業である九州電力は、同じ公益事業会社であるバルセロナのGas Natural社の6割程度の売り上げにとどまっています。Fortune 500に掲載されるような都市の成長の基軸となりえる企業の登場が待たれます。
生産性の高い都市の経済力は強い
労働者が生み出す付加価値や消費額、投資額などを総合評価した国内総生産GDPで、9都市の経済活動規模の比較を試みます。ここでは、域内GDPを域内の労働者数で割った従業員一人あたりGDPを比較します。釜山より若干低い額に位置する福岡は、9都市中最下位となっています。最高額のシアトルと比べると半分程度、およそ67,000米ドルの差があります。9都市中でのシアトルの突出ぶりが目立つとはいえ、福岡の73,667米ドルという額は、平均的に約90,000米ドルを示している欧州の各都市と比較しても見劣りする水準です。
各都市のGDP成長率でも福岡は1.33%と、ミュンヘンの1.04%に次いで低い数値を示しています。福岡と同様に労働力人口の伸びが低い釜山が、これほど高い成長率を示していることは、主要産業の転換による可能性が考えられます。