
04.「第3極」の都市plus3の社会環境・自然環境にバモス!
オリンピック・パラリンピックで世界中の耳目を集めたブラジル・リオデジャネイロ。皆さんも熱狂されたと思います。現在、リオデジャネイロでは、オリンピックのレガシーをどう活用していくかで議論が白熱しています。根本的な社会変革が必要な諸問題に取り組んでいるリオデジャネイロですが、その先を行く「第3極」の都市plus3に選定された諸都市では、どのような社会環境・自然環境が存在し、都市のよりよい暮らしに貢献しているのでしょうか。(※「バモス(Vamos)」とはブラジル・ポルトガル語で「Let’s Go!」の意味)
今回は、「第3極」の都市の評価軸のひとつである「生活の質」のうち、「安全性・持続性」にかかわる指標を比較します。
都市化が進むと犯罪が増える?
ブラジル第二の都市リオデジャネイロは、世界最高レベルの犯罪率に悩まされています。近年、一層複雑化する経済階層や人種構成といった要因をもとに、都市では、その歪みが犯罪という形で表出しています。ここでは各9都市の十万人あたりの殺人件数を比較してみましょう。
まず目立つのが、メルボルンの突出した数値の高さです。最も安全な福岡・バンクーバー・ヘルシンキとの格差は歴然です。ヨーロッパでは比較的数値の高いバルセロナ・ストックホルムと数値の低いヘルシンキ・ミュンヘンとで、明暗が分かれています。また、北米の2都市もさほど数値が高いわけではありません。犯罪率の低さが都市のよりよい暮らしに直結するのは自明ですが、これをどう対外的にアピールし魅力度を増していくかも、今後の大事な課題でしょう。
どこにいても自然の脅威から逃げ切ることはできない
東日本大震災や熊本地震で、一時的に外国人の足が、被災地域とその周辺から遠のいたことは記憶に新しく、災害頻度は都市のイメージに影響を与える重要な因子であると思われます。そこで、9都市の災害頻度を比較してみると、それぞれの都市で様々な災害が発生していることが分かります。福岡では、台風の発生頻度が最も高く、釜山も同様の頻度となっています。しかし、福岡での洪水の頻度は釜山よりも低く、福岡の治水対策に一定の成果をみることができます。ミュンヘン・シアトル・バルセロナでも、洪水の発生頻度が最も高く、治水対策が最重要課題であると考えられます。ヘルシンキ・ストックホルム・バンクーバーは、総合的に災害の少ない地域であるといえます。
健康でいるために都市に求められるもの
医療はその国及び地域の福祉制度の中枢であり、医療の充実なくして地域の成長はありません。保険制度やその国の医療レベルにも左右される出生時平均余命ですが、ここではまず医師数との関連性を考察してみましょう。EU(特に北欧)の諸地域とメルボルンの属するビクトリア州が医師数の充実を示すのに対し、アジアと北米の諸地域は医師数が比較的少ないようです。その中でも九州・沖縄は上位の諸地域に近接していますが、改善の余地は大いにあります。
次に、出生時平均余命を見てみると、シアトルがあるワシントン州の低さが際立ちます。充実した医療に裏打ちされた出生時平均余命の高さを示している、ストックホルム県やビクトリア州と比べて、その差は3年にもなります。なお、カタルーニャ州と九州・沖縄では医師数が平均的な水準に位置しているものの、出生時平均余命では高い数値を出しています。その一方で、ヘルシンキ・ウーシマー地域とバイエルン州で、医師数が充実している割に出生時平均余命が短いのは気候や食事なども影響している可能性があります。
環境問題を克服した都市のゆくえ
環境問題は局地的問題ではなく、グローバル規模の問題です。この問題にどれほど真剣に取り組んでいるかは、その都市の先進性を示す指標になるのではないでしょうか。下記のグラフを見ると、第一に、アジアとEUの都市のCO2排出量の少なさがよく分かります。一方で、寒冷地のヘルシンキと温暖なメルボルンの排出量の多さが目立ち、それらに北米の2都市が続いています。環境規制の整備が進むEUと韓国に対し、日本・福岡も同程度の基準を示しています。環境問題への市民ひとりひとりの自覚に加え、環境分野での一層の技術的イノベーションが期待されます。
PM2.5に代表されるような近年の公害問題もまた、グローバル規模の問題です。PM2.5の大きな発生源の中国に近接する都市である釜山と福岡の数値は突出しており、一国では解決できない課題の深刻さをみることができます。
都市が選ぶことができない気候
シリコンバレーの発展には、暖和で晴れの多い気候が貢献したとする説もあります。気候が都市の発展に多少でも相関があるとすれば、一考に値するでしょう。ここでの比較グラフを見ると、シリコンバレーと同じ米西海岸に位置するシアトルの快適気温月数と福岡のそれとは同じであり、シアトル以上であるバンクーバー、メルボルンと並んで、市民が温暖な気候を享受していると言えます。また、雨天日数を見ても福岡は平均的な場所に位置しており、多雨でもなく少雨でもない、比較的安定した気候を有する都市であることが分かります。
ヨーロッパでは、ストックホルムの快適気温月数は、バルセロナと同等である一方で、ストックホルムの雨天日数は9都市で最も多く、バルセロナは最も少なくなっています。晴天の日数の多さは、都市の持つ気候のイメージに大きな影響をもたらしていると考えられます。
自然は都市をささえる重要機能
都市は人工的な創造物ですが、自然の要素を多く含んでおり、そのバランスが重要であると考えられます。9都市の中心部より半径10km圏での緑地と水面の占有面積を比較してみます。ヘルシンキと釜山では、10km圏の半分以上を自然が占めていることがわかります。水の都として有名なストックホルムでは、緑地の面積も水面と同等にあります。港湾都市として発展してきたバルセロナ、メルボルン、バンクーバー、シアトル、福岡では、水面の面積の大きさがそれを象徴しています。ミュンヘンは唯一海に面していない都市ですが、緑地面積は3番目に多くなっています。いずれの都市においても、今後都心部の人口密度上昇にともない、如何に自然を保全し、活用していくかが都市開発のポイントであるといえます。
エネルギー消費の少ないコンパクト・シティ
都市のコンパクト・シティ度合いを計る基準の一つである人口密度を見てみましょう。9都市の中で人口密度が圧倒的に高いのはバルセロナです。2位以下の3倍近くあります。19世紀から計画的な集合住宅が整備されているバルセロナですが、近年の移民の流入もあって限度に達しつつあるのも事実です。そこで、近年は住宅地が周辺地域にも拡張しており、それが非常に高い都市圏人口密度にも反映されています。バルセロナに次いで、都市圏人口密度の高い都市は釜山です(釜山は都市圏と市域の区別がありません)。ストックホルム、ミュンヘン、メルボルン、バンクーバー、福岡は、市域人口密度が比較的近く、空間利用にも共通性があると考えられます。9都市で最も都市圏域の大きいシアトルでは、市域人口密度は最も低く、都市圏への人口の分散をうかがうことができます。
公共交通は都市を健康にする
人口密度の次に、その人口のモビリティを支えるインフラの要と言える鉄道の駅数を見てみましょう。9都市の中心部から半径10km圏での駅の数を、緑地・水面を除く陸地(可住地域)の面積で割った数値(駅密度)を比較します。ここでもバルセロナはトップであり、公共交通も人口密度の高さに応じて整備されていることがうかがえます。釜山とストックホルムは、他都市に比べて駅密度は高く、それとは対照的にシアトルとバンクーバーの低さが目立ちます。トラムやバスなどの他の交通機関の選択肢もありますが、大量輸送が可能な鉄道は都市の効率的な運営に最も寄与すると考えられます。図を見ると、釜山やストックホルム、バルセロナでは人口居住地域に均一に鉄道駅が設置されていることが分かります。福岡は、鉄道は一定に整備されていますが、まだ余白の地域も見受けられます。因みに、メルボルンは世界最大規模(総延長250km、総停留所数1,763ヶ所)を誇るトラム網を有しています。都市圏域が非常に広く人口が分散しているメルボルンでは、小規模でも駅数を多く設置できるトラムが人口運輸の中核を担っているようです。