
URCナレッジコミュニティ 防災ワークショップ【報告】
「“一人ひとり”の多様性と防災~オリジナルな防災カード作成を通じて考える~」
自然災害が頻発する中で、日ごろから備えの重要性が高まっています。備えは、私たち一人ひとりの年齢、性別、国籍、職業、趣味、身体的特徴、ライフスタイル、習慣、住まい、コミュニティ等は異なっており、誰一人として同じではありません。今回のワークショップは、「わたしの防災カード」作成を通じて、一人ひとりの多様性への気づきや必要な備え、多様性のある社会における防災について意見を交わしました。防災、国際、観光、男女共同参画、地域コミュニティ等の様々な分野に携わる計27名の方(うちオブザーバー2名)にご参加いただきました。
◆ワークショップ概要◆
【タイトル】「“一人ひとり”の多様性と防災~オリジナルな防災カード作成を通じて考える~」
【日時】2020年1月30日(木) 16:00~17:30
【会場】福岡アジア都市研究所会議室
【主催】公益財団法人福岡アジア都市研究所
【共催】福岡市
【プログラム】
16:00 URC常務理事挨拶
16:05 URC報告「一人ひとりの多様性と必要な備えとは」
(報告:URC研究主査 中村由美)
16:20 ワークショップ(「わたしの防災カード」作成と議論、各自の防災カードの自由閲覧)
17:05 意見交換「多様性のある社会における防災」
(進行:URC研究主査 菊澤育代)
17:30 終了
※今回のワークショップ開催にあたり、Yahoo! JAPAN様よりYahoo! 防災カードをご提供いただきました。Yahoo! 防災カード(全143種類)は、「人の数だけ備えがある」というコンセプトのもとで作成され、一つ一つのカードの方面に自分の身の回りのこと等の「条件」、もう一方の面にそれに対応する「備え」や「自分ができること」が書かれており、多様な備えのヒントを与えてくれます。
*Yahoo!防災ダイバーシティページhttps://www.aid-dcc.com/works/yahoo-bosai
◆URC報告◆
冒頭、中村研究主査よりワークショップ開催の趣旨説明と基礎情報の提供として、「一人ひとりの多様性と必要な備えとは」について報告を行いました。多様性は年齢や性別といった外面にとどまらず、趣味、コミュニケーションスタイル、習慣等の個々の内面の特性の違いも含む概念です。一人ひとりに違いがあることから、災害の前や災害時に必要なものは異なり、多様な備えがあると言えます。報告の中では、こうした多様な備えを考えるきっかけになるものの事例として、Yahoo!防災カードも紹介しました。
福岡市には約159万通りの備えがあると言えますが、一人ひとりの違いを知りそれらに配慮していくためには、お互いを知り話し合うことのできる環境づくりが大事です。今回のワークショップをそうした場にしたいという想いを参加者に伝え、ワークショップに臨んでいただきました。
◆ワークショップ:「わたしの防災カード」◆
報告に続くワークショップでは、4つのグループにわかれ、参加者はそれぞれ「わたしの防災カード」を作成しました。
「わたしの防災カード」の作成
まず、一人の人物像を設定し、その設定をもとにプロフィール(自身や身の回りについて、住まいや暮らしについて、カラダの状態など、趣味や習慣について)を書き出します。人物像では、「自分のこども」、「外国人の同僚」、「自分の祖母」等の身近な人や自分自身をイメージしたものが見られました。次に、人物像とそれに沿ったプロフィールをもとに、災害が起こった時に必要なものや、災害が起こる前にできることなどの備えと、そう考えた理由について記述していきます。
「グループメンバーの防災カード」(グループ内の意見交換)
こうして出来上がった「わたしの防災カード」をもとに、テーブルファシリテーターの進行により、各テーブルで意見が交わされました。自分の祖母を想定した人は、“足が不自由なので避難経路を事前に確認する必要があると思う”、プロフィールで眼鏡をかけていると記載した人は“日頃からスペア眼鏡を持っている”、ペットを飼っている人は“餌だけでなく排せつについても考えないといけない”など、各自が設定した人物像やそれに必要な備えについて紹介していきます。他のメンバーの意見に共感したり、同じプロフィールを考えた人が異なる備えについて発表し合ったりする様子や、意見交換の中で新たに得られた気づきを自分のカードに記入する参加者の姿が見受けられました。
また、今回、カード作りや議論の参考として、各テーブルへYahoo! 防災カードを配付していましたが、自分が書いた内容やグループの議論と照らし合わせたりしながら話し合う様子も見られました。
「25通りの防災カード」(自由閲覧)
グループ内の意見交換終了後、各自が防災カードをテーブルに置き、他のグループの参加者のカードを自由に見ていきます。25通りの防災カードはどれも想定された人物像や備えが異なっており、参加者は熱心にほかの人が作成した防災カードを読み込み、意見を交わしていました。
◆意見交換「多様性のある社会における防災」◆
25通りの防災カードを閲覧した後、参加者全体の意見交換が行われました。
まず、防災カード作成や閲覧を通じて得られた多様性への気づきについては、「各自の想定がそれぞれ違うので、“そうなんだ”と気づきがあった」という意見のほかにも、「一人ひとりに違いはあるが、国や年代に関わらずスマートフォンの充電器のように誰にでも共通する備えもある」という、多様性と共通性に関する意見が出されました。その他、「備えの中でも命に直結するような優先すべきものがある(例えば持病を持っている人は薬など)」との“備えの優先順位”、という意見に対し、参加者が思わずうなずく場面も見られました。
また、「自分を想定して防災カードを書いたが、自分自身の防災について気づきを得ることができた」という意見もありました。今回のワークショップが参加者自身の備えを振り返る機会にもなったようです。
続いて、進行から、「備えというと自分に足りないものやできていないものというマイナス面に目が向きがちだが、“自分だからこそできること”というプラス面」について問いかけると、「もしも自分がお笑い芸人や、音楽ができる人だったら、被災した人たちに癒しを提供できるかもしれない」との意見が出され、プラス面という視点から、参加者が改めて自分の防災カードを見直す様子も見られました。
◆全体を通して◆
今回のワークショップは、防災カードの作成や意見交換を通じて、自分とは違う誰かへの気づきを得たり、自分自身の日頃の防災について考えたりする機会になったのではないでしょうか。参加者自身が作成した「わたしの防災カード」と、気に入ったYahoo! 防災カードは、参加者におみやげとして持ち帰っていただきましたが、それらを話のタネとして、今度は家族や職場などで災害への備えについて話し合っていただければと思います。
また、今回の参加者の中には、地域で避難訓練などの防災の取り組みをされている方もいらっしゃいました。「自分の身の回りのことやカラダの状態など、具体的に考えていくという方法が参考になった」、「自分の地域でも同じようなワークショップをやってみたい」との感想もいただきました。今回のワークショップが、防災教育の一つのアイデアとして、各地域の防災力向上の取り組みにつながっていけば嬉しく思います。