「防災」シリーズ07:世界の“BOSAI”とボランティアのゆくえ

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シリーズ07:

世界の“BOSAI”とボランティアのゆくえ


✔ BOSAIの主流化
✔ 支援受け入れ機関の役割と負担
✔ 非公式セクターの制度化と“BOSAI”力の向上
研究主査 菊澤育代
[Dec 4, 2019] 
BOSAIの主流化
2019年11月10日から12日まで、仙台にてWorld BOSAI Forum 2019が開催されました。お気づきの通り、「防災」を意味する“Disaster Prevention”や“Disaster Risk Reduction”ではなく、日本語の“BOSAI”が使われています。日本は、全世界の地震(マグニチュード6以上)の約2割が発生する場所にあり*1、台風の上陸頻度は世界第3位という災害大国です*2。BOSAIには、こうした背景のもとで蓄積されてきた、日本の「防災」の知見や経験を世界に広め、「防災の主流化」を目指すという意図が込められています。

災害はひとたび起これば、あらゆる分野や人びとの日常生活にまで影響を及ぼします。それゆえ、活動の分野やレベルを問わず誰もが「防災」に取り組まなければなりません。

World Bosai Forum 2019のロゴ
World BOSAI Forum 2019のロゴ
出所:一般財団法人世界防災フォーラム WORLD BOSAI FORUM
(http://www.worldbosaiforum.com/)
これを踏まえ、1999年ごろから「防災の主流化」という言葉が国連国際防災戦略(現、国連防災機関:UNDRR)によって用いられるようになってきました。「防災の主流化」とは、明確な定義はないものの、災害予防の取組をあらゆる政策に反映させ普及させること、開発の政策に防災の視点を反映させること、防災への投資を増大させることの3点が主旨として掲げられ*3、フォーラムのスローガンとしても位置付けられています。

支援受け入れ機関の役割と負担
今回のフォーラムで特に興味深かったのが、災害時に欠かせないボランティアを中心とした支援者とそれを取り巻く課題に関する議論でした。阪神淡路大震災が起こった1995年は、ボランティア元年とも呼ばれ、それ以降日本では、災害が起きると全国からボランティアが駆けつけるという光景が見られるようになりました。ボランティアによるがれきの撤去や泥のかき出しなどの支援が感謝される一方で、被災者ニーズとのミスマッチ、支援の受け入れ機関やボランティア自身に重くのしかかる負担などの新たな問題が指摘されるようにもなっています。

NPOやボランティア団体の役割をテーマとしたセッションでは、平成30年7月豪雨で被災した岡山県・倉敷市におけるボランティア受け入れの実態が報告されました。それによると、7月6日から7日にかけて発生した豪雨の後、9月までに53,019人がボランティアに訪れています。ここでの大きな問題は、それだけの数のボランティアを管理する受け入れ側のNGOのキャパシティ不足です。

倉敷市における災害発生後のボランティア数の推移
倉敷市における災害発生後のボランティア数の推移*4
出所:CWS JAPAN
(https://www.cwsjapan.org/wp-content/uploads/2019/03/Lessons-From-Mabi.pdf)

東日本大震災以降、健康、障がい者支援、児童保育、福祉、環境等さまざまな分野で活動していたローカルのNPOが、「防災」の重要性を認識するようになり、それぞれの組織活動の中に「防災」を組み込むようになりました。このことは、「防災の主流化」に則った変遷であり、歓迎すべきことではあります。しかし、新たなテーマを個々のNPO活動に組み込むということは、これまでと異なる専門的知見が求められることになり、新たなパートナーシップの構築が必要となります。

災害時の障がい者支援に関するセッションでも、NPO等の現地の既存組織の重要性が指摘されました。これまでの災害において、障害を持ちながらも、様々な事情により日頃から公的な障がい者支援サービスを受けていない人が、災害時に適切な支援を受けられないという事態が発生しています。災害時に、福祉的支援を必要とする人たちを把握し適切な支援を提供するため、福祉の専門家らが被災地域にて個別訪問を行っています。こうした活動を支援する枠組みとして、「災害福祉支援ネットワーク」の立ち上げが厚生労働省によって進められています*5。これに基づき、災害時には、全国各地から福祉の専門家が被災地に集まり、現地の障がい者支援にあたります。こうした支援者のとりまとめを行うのが自治体の所管課や地元NPOなどの現地組織(ネットワーク事務局と位置付けられる)になりますが、やはりそこでも現地組織のキャパシティが活動の運営を左右します。

非公式セクターの制度化と“BOSAI”力の向上
ボランティアの受け入れだけではなく、ボランティア志願者側の体制についても議論が交わされています。上記のグラフからも明らかなように、ボランティアの数は、被災地域にとって最も必要な時期にピークを迎えるのではなく、ボランティア側の休日に連動します。もしくは、ボランティア志願者や専門性を要する派遣者の中には、有給休暇等を取得して支援に向かっているという実態もあります。そうでなくとも、往復の旅費・滞在費の負担や、滞在場所や食事等の確保についても現地の被災者に迷惑をかけないことが求められ、現状においてボランティアは、あくまでも個人的になされることであり、その負担や責任が個人にのしかかります。

ボランティアに行く前に自問すること
ボランティアに行く前に自問すること*6

このような課題に対する解決策の一つに、災害時の支援者のための環境整備を進めていくことが挙げられます。オーストラリア赤十字社のボランティア制度を見ると、平時にボランティアを募集し、平時に研修を行います。基礎的な研修から上級訓練まで、ボランティアの多様なキャリアパスが描かれます。日本においても、広域連携における労務管理上の位置づけの明確化や規定整備等を含むボランティア活動の制度化が求められています*7。ボランティアが制度化されることで、研修を受けたボランティアが社会的に認められた位置づけで現地に赴くことができるようになり、現地のニーズに見合った支援の提供やボランティア個人の負担の軽減、受援者側に立つ現地の事務局運営の支援などの可能性が広がります。今後、支援者および受援者、両者の活動の円滑化を進める環境整備の進展は、日本の“BOSAI”力のさらなる向上につながると考えられます。

*1 「平成26年版防災白書」付属資料1世界の災害に比較する日本の災害被害
*2 気象キャスターネットワーク広瀬駿(2014)「数字で観た世界の台風」
*3 「平成27年版防災白書」特集 第3章 第1節 我が国の国際防災協力の概要
*4 Six Months Since Western Japan Flood, Lessons from Mabi, CWS Japan, 2019
https://www.cwsjapan.org/wp-content/uploads/2019/03/Lessons-From-Mabi.pdf(アクセス日2019年11月)

*5 厚生労働省. 災害時における福祉支援体制の整備等.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000209718.html(アクセス日2019年11月)

*6 Role of NPOs and volunteer organizations in disaster recovery: International and Japan cases / Tohoku University-IRIDeS in World BOSAI Forumより一部抜粋
*7 小高將根. 大阪府国際交流財団による外国人への災害時支援と今後の課題. 復興. 2017; 8 (2): 6-10