
(公財)福岡アジア都市研究所一同、沖縄の皆さまへ、心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧をお祈り申し上げます。
沖縄における観光危機管理
~県一体となった災害・危機への対応
✔ 観光客と観光産業を守るための計画の策定
✔ “危機からの回復”までを視野に:麻しん(はしか)感染拡大防止の取り組みの事例
✔ 一人ひとりが観光産業の守り手である

観光客と観光産業を守るための計画の策定
冒頭で、観光が沖縄の主要産業であると述べましたが、同県において、観光収入は約7,334億円、県のGDPの約16%を占めています*1。観光産業への雇用効果は、全就業者の約20%に相当するほど、雇用面でも重要な役割を担っています*2。観光客も増加傾向にあり、アジア各国・地域間とのLCCの就航増加を背景に、特に外国人観光客が増加しており、対前年度比では11.5%増となりました*3。外国人観光客は、言葉や場所がわからないことや、慣習の違い、地域コミュニティとのつながりをもたないことから、災害発生時には特に配慮や支援を必要とします。このような人たちが、多く滞在している状況にあると言えます。
沖縄県では、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件による観光需要の落ち込みという経験と、さらに、2011年の東日本大震災の発生を受けて、災害や危機から観光客と観光産業を守るという意識が生まれました。その後、観光危機管理モデル事業が実施され、2015年には「沖縄県観光危機管理基本計画」、2016年には「沖縄県観光危機管理実行計画」という観光危機管理に関する2つの計画が策定されました。観光危機は、下記の表に示しているとおり、地震や台風等の自然災害・危機のほか、人的災害・危機、健康危機、環境危機、県外で発生した災害・危機が想定されています。これらの計画では、観光危機が起こった際に、危機からの回復に向けた時間軸と、関係各所がどのように連携し、どのような方法で危機へ対応していくかが定められています。
*1 観光収入の数値は、沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課「平成30年度の観光収入について」(令和元年7月)(https://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoseisaku/documents/2018_fy_incom.pdf)。GDPの数値は、沖縄県企画部「令和元年度経済の見通し」(令和元年9月)(https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/documents/r1outlook.pdf)の平成30年度の県内総生産。
*2 就業者の雇用効果は、沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課「平成29年度 沖縄県における旅行・観光の経済波及効果」(平成30年9月)(https://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoseisaku/documents/h29_economic_effect_20180925.pdf)。全就業者数は、前掲注1「令和元年度経済の見通し」。
*3 観光客数は、沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課「平成 30 年度 沖縄県入域観光客統計概況」(平成31年4月)(https://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoseisaku/kikaku/statistics/tourists/documents/h30nendogaikyou.pdf)。
“危機からの回復”を視野に:麻しん(はしか)感染拡大防止の取り組みの事例
今回、計画の策定に携わった沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)へ、沖縄の観光危機に関する取り組みについてお話をうかがいました。観光産業は、下記の図の4つの時間軸で考えると、平常時や発災直後の対応はもちろんのこと、左上の“危機からの回復(Recovery)”も重要です。観光危機発生後、観光客が減少することは想像に難くありませんが、これは決して“一時的な現象”ではありません。風評被害による客足の低下など、危機発生後もしばらく影響が残り、経済に深刻な被害を及ぼしてしまうのです。
出所:沖縄県「沖縄県観光危機管理基本計画 概要版」p.5(https://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoseisaku/kikaku/report/policy/documents/gaiyouban.pdf)
近年の観光危機の事例として挙げられたのが、2018年3月に沖縄県内で麻しん(はしか)患者が確認され、県内での感染者が拡大するという「健康危機」の発生でした。麻しん(はしか)患者発生後、沖縄県では、観光産業への影響を最小限に止めるために、麻しんや感染者数に関する正しい情報の発信や、国への「麻しん(はしか)感染拡大防止策にかかる提言書」の提出等の取り組みが迅速に行われました。その結果、早期に麻しん(はしか)流行の終息が図られ、損失を最小限に止めることができたのです。同年6月11日には、関係各所との共同記者会見による沖縄県の終息宣言が行われ、その後、国・地域別の観光プロモーションの実施など、観光客を呼び戻すための取り組みが行われました。
一人ひとりが観光産業の守り手である
こうした迅速な対応が可能だった理由の一つとして、それまでに、関係者間の連携が構築されていたことが挙げられます。観光危機管理に関する計画の中で、官民一体となった取り組みと、情報収集や情報発信等に係る各主体の役割が明記されています。今回も、初動期から継続して、県とOCVBが「沖縄県観光危機管理連絡会議」を開催し、情報共有や対応策の検討を行い、観光関連団体や事業者も感染拡大防止のための取り組みを行うなど、連携が図られました。
また、組織レベルの連携構築のみならず、「沖縄観光危機管理シンポジウム」等を通じた、県民を巻き込んだ観光危機管理に関する意識の醸成が進められています。OCVBへの聞き取りによれば、特に近年、観光客はメジャーな観光スポットだけではなく、レンタカーで住民が普段生活している地域まで行くことも増えているそうです。つまり、万が一地震等の災害が起きた際、観光事業者に限らず、県に住む一人ひとりが観光客の支援者となり、観光産業の守り手になり得るのだといえます。沖縄では、県一体となって、災害や危機への取り組みが推進されているのです。