
避難所運営の若き担い手
~熊本大学における被災者支援 【後編】~
✔ 手探りからの情報収集・伝達手法の確立
✔ 背中を押された学生たち

出所:”416″編集委員会(2017年3月)『416』p.22
(http://coc.kumamoto-u.ac.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/07/h28_416.pdf)
熊大学生による避難所運営における多様な支援活動の中でも、ここで取り上げたいのは、学生ならではの工夫や姿勢です。例えば、避難所の一日のスケジュールを見ると、エコノミークラス症候群などの予防策として、朝10時と夕方16時の2回、ラジオ体操が組まれていました。生涯スポーツ福祉課程の学生が中心となり、子どもからお年寄りまで、脚が不自由で立ち上がりづらい高齢者や車いすの人たちにも、椅子に座ったラジオ体操を行い、参加を促しました。また、留学生ら、ラジオ体操を知らない人にも「ぜひ一緒に」と誘った結果、参加した外国人は初めてのラジオ体操を面白がり、外出中でもラジオ体操のために戻ってくる人も出てきたそうです。全体案内として関心のある人だけに参加してもらうのではなく、学生が避難者一人ひとりに声をかけることで、若さゆえの押しの強さ(?)も手伝って、健康維持にとどまらない、ラジオ体操を通じた避難者間の交流が生まれました。また、情報の収集や伝達においても、学生らしい一面が見られました。災害発生時には、大量の情報が行き交い、どの情報が信頼できるのか、混乱しがちです。そこで、学生らはグループLINEを活用し、近隣の小中高の巡回中、物資の過不足についての情報をグループ全体で共有しました。本部に必ず情報が集まる仕組みを整備したうえで、本部では、ラジオやスマートフォンを使い、気象情報や交通情報、自治体からの発信、外国人避難に関する大使館からの情報等を収集しました。災害時の無料Wi-Fi 「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」*が利用可能となっていたこともあり、学生が日ごろから使い慣れたスマホが活躍したことは想像に難くありません。また、個々の活動班の連絡・引き継ぎ用に、記録ノートを作成しました。このことは、記録集『416』でも「やっておくべきこと」として繰り返し述べられており、『416』の巻末には、今後の避難所運営に役立てようと記録ノートのフォーマット集がまとめられています。

(右)引き継ぎノートフォーマット集 出所:”416″編集委員会(2017年3月)『416』巻末
(http://coc.kumamoto-u.ac.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/07/h28_416.pdf)
熊大黒髪キャンパスでは、大学の教職員の多くが学生の安否確認のため動けない中で、学生らが指揮系統を確立し、情報共有手段を構築し、課題に対応してきました。しかし、これらの学生がバラバラに、例えば地域の公民館の一被災者となっていたら、ここまでの主体性を発揮しなかったかもしれません。支援を受ける側(受援者)に留まっていた可能性も考えられます。このことは、誰しもが環境や条件によって、支援の担い手にも受け手にもなりうるということ示しています。
熊大の場合、避難所が大学という学生らのフィールドであったこと、サークルなどの組織的な土台があったこと、教職員の不在により「自分たちが何とかしなければいけない意識」が初動の段階で生まれたこと、など多様な条件が考えられます。しかしこれらに加え、著者がヒアリングを通して感じたことは、学生たちが熊大での避難所運営で支援者として活躍できたのは、最後まで“大人たち”が後方支援に徹し、学生に判断を委ね、行動の主導権を与えたことにあったのではないかということです。誰かに頼られたり、何かを任されることは、人々の行動の動機付けになります。こうしたことが、防災人材の育成や災害時の支援者を育成していくためにも、重要な鍵になるということを感じた熊大訪問となりました。
* 00000JAPANは、通信事業者が日ごろ契約者のみに提供するアクセスポイントを大規模災害時に開放する取り組みで、熊本地震で初めて実際に運用された