
一人ひとりが「助かる」とは?
~「地域コミュニティの防災力の向上シンポジウム」参加報告~
✔地域づくりの”隠し味”としての防災
✔減災とは「最後の一人まで助けること」

2019年6月3日(月)、姫路にて開催された「地域コミュニティの防災力の向上シンポジウム」に出席しました。本シンポジウムは、(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構による「地域コミュニティの防災力向上に関する研究 ~インクルーシブな地域防災へ~」(2018 年 3 月発刊)の調査報告という位置づけで、また、「阪神・淡路大震災25年記念事業」の一環として開催されました。
インクルーシブなまちづくりとは「助かる」社会を構築すること
当該研究は、「学知」(大学・研究所)と「実践知」(NPO・市役所等)の両面から、人々の多様性に配慮したインクルーシブ(包括的な)で持続可能な地域防災像を提示し、実践的な方略を提言することを目的としています。
シンポジウムで基調講演を行った、研究統括者の渥美公秀氏(大阪大学)によれば、インクルーシブなまちづくりとは、誰かが誰かを「助ける」、誰かに「助けてもらう」という事態の連鎖を計画するのではなく、「助かる」関係を構築する、ということを意味します。「助ける」「助けられる」ではなく、中動態で示される「助かる」社会は、誰が誰の意志と責任で助けた・助けられた、と言い合わないで済む社会とされます。
地域づくりの〝隠し味″としての防災
研究では、兵庫県上郡町赤松地区をモデルに、連合自主防災組織を母体としつつも、外部の組織や個人と協働して作り上げる地区防災計画が模索されました。この取り組みは、防災に特化した計画の策定ではなく、あくまでも村づくりの一環として、地域おこしや福祉、環境などの取り組みと連動した地区防災として進められています。地区の地域行事である白旗城まつりを活用し、地域おこしの一環として災害時要援護者への支援を実験的に行っています。

例えば、高齢者や障がい者に対して、祭りの参加を促し、まつり会場までの移動手段を検討するのですが、この検討と移動手段の提供こそが、実際の避難時の移動手段となるわけです。65歳以上の住民リストを作成し、それぞれの移動手段を検討すると自ずと発災時に配慮が必要な人や居住場所、支援者、支援の方法等が浮かび上がってくるという具合です。シンポジウムを通して得られたキーワードの一つが、防災のみを切り取って議論することはできない、ということです。防災の基盤として地域づくりがあり、地域づくりの隠し味として防災がある、という位置づけが強く感じ取られました。
減災とは「最後の一人まで助けること」
研究に関わる研究者や地域の人たちが登壇したパネルディスカッションでは、「助かる」「インクルーシブ」「まちづくり」の3つのキーワードに沿って議論が展開されました。中でも、
インクルーシブにおける「最後の1人を助けること」と「最大多数の幸福を達成すること」の葛藤についての議論が印象的でした。
その中で、被災地NGO協働センターの村井氏は、法学者芹田健太郎の言葉を借りて、100人中1人だけが違うことを言う時に、そのたった1人の代弁をするのは誰なのかという議論を提示しました。この場合、それがNGOであり、残り99人への対応は行政・政府が担うと指摘しました。こうした連携によって、やはり減災の目標は「最後の一人まで助けること」であると力強く述べられました。
冒頭の渥美氏の「助かる」社会がこれに重なり、誰が誰を助けるのか助けられるのかではなく、みんなで協働して「最後の一人まで」が「助かる」ように協働することが防災・減災のあり方であると感じました。