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福岡市内企業・事業所のワーク・ライフ・バランス/働き方改善推進支援政策に関する研究(3)

研究趣旨

福岡市はこれまで、広域的消費・サービスおよび管理機能の拠点として発展してきましたが、人口の減少による需要低迷やグローバル化に伴う国際的商品・サービスとの競争などもあり、現状のままでは今後の成長は難しくなることは明らかです。そこで、魅力的な都市を形成し、クリエイティブな人材を吸引し、価値創造型の都市機能を強化していくことが重要だと考えられます。
魅力的な都市とは、町並みや施設や交通などハードの面だけではなく、そこに生活する市民や所在する企業等の生き方や活動、そしてつながり方も大きな要素であると思います。 したがって、市民の「仕事と生活」のあり方を変え、生き生きと働き、かつ、自由に多様な生活活動を行える都市社会を目指すことが重要であり、ワーク・ライフ・バランス(以下WLBと表現する)の推進は、その「要」に位置する政策であろうと考えられます。
そこで、福岡市内の企業・事業所におけるWLB推進支援の効果的なあり方について調査・研究しようとするものです。

研究結果 

 1年目は、福岡市内の企業における子育て期の女性を巡るWLB推進の実態を中心に、前年に福岡市によって実施されていた指示的面接調査結果やグループインタビューの結果を分析しました。従業員の多い企業を中心に就業規則の改定や関連対策が進んでおり、かつ、効果やプラスの影響があると認識されていますが、小・零細規模企業では取組があまり進んでいないこと、また、保育施設等への強い要望があることがわかりました。
実際に制度を利用して勤務を続けている子育て期の女性従業員へのインタビューでは、「時間を効率的に使うようになった」「前倒しで業務を行うようになった」「(不意の交替に備え)自分の業務をオープンにするようになった」などの有意義な変化があったことがわかりました。これらを踏まえ、(1)WLB推進を市の都市成長戦略として位置づけること、(2)事業主行動計画策定や人材マネージメント専門家の活用への支援、(3)保育施設等の拡充、(4)講演会やシンポジュウム等の開催等々の課題を抽出しました。
2年目は、WLB推進の上で重要な鍵となる企業経営者の意識動向と、男性従業者の職場環境や家庭における家事・育児等の分担・協力状況等意識や生活実態について、福岡市内企業・事業所を対象としたアンケート調査を実施しました。企業経営者アンケートでは、回答者のほとんどがWLB推進に肯定的でしたが、実際の取組意向としては「既に取り組んでいる」企業(44.4%)を除き、「積極的取組」が56.3%、「消極的取組」が38.1%、「取組むつもりはない」が1.8%でした。
男性従業者についても、ほとんど(91.9%)がWLB推進に肯定的でしたが、わずか(4.0%)に否定的な回答がありました。企業や職場の機能維持に対する不安や勤労の価値観崩壊への懸念が要因と思われます。また、回答者自身の育児休業や介護休業を取る可能性(ないし必要性)を聞いたところ、「実際に休業取得した」という回答は計1%に満たなかったものの、今後、「介護休業をとる可能性がある」という回答が28.4%に上ったことは注目されます。特に、40~49歳では47.7%に達しました。
男性従業者の家事遂行状況は、「ゴミだし」、「日常の買い物」、「部屋掃除」、「洗濯」、「炊事」、「風呂洗い」、「食事の後片付け」7つの行為すべてにおいて全国を上回っていると見られます。しかし、育児遂行状況は、「遊び相手」、「風呂に入れる」、「食事をさせる」、「寝かしつける」、「オムツ替え」、「あやす」、「保育園等への送迎」の7つの行為の合計で見ると、全国に比べて、20~29歳ではむしろ高く、30~39歳ではほぼ全国並みでしたが、40~49歳層の育児遂行状況が極端に低いため、全体では、全国を下回っているようです。
以上のような結果を踏まえ、(1)「事業主行動計画」を策定しようとする企業が、既に推進している企業の実例を学べる場、機会を設ける。また、市内企業がWLB推進「事業主行動計画」を策定する場合、希望する企業には策定支援専門家(アドバイザー)経費について支援を行う、(2)WLB推進「事業主行動計画」策定と併せて、業務や人事マネージメントの改善を図るよう推奨するとともに、上記のWLB推進のアドバイザーなどを利用する際の経費の一部補助を行う、(3)企業経営者や従業者自らが「経営の質」の向上、「働き方の質」の向上を目指す取組の1つの手段として、PDCAサイクルの導入やTQM(トータル・クオリティ・マネージメント)等の普及を図る、(4)学校教育の中で「仕事と生活の調和」の重要性を学習する機会を作る、また、ソーシャル・メディアを利用してWLB概念の発信を行う、(5)WLB推進に向けて取組を行っている市民グループ、職場グループ、地域グループ等のネットワークを形成し、その活動を支援する助成措置などを講ずる、(6)WLB推進モデル市民を選考し表彰などを行う、等の政策的提案を行いました。
3年目は、前年までの調査研究のフォローアップ研究として、(1)市内企業の人事担当者を含む従業者にグループおよび要高度資格従業者グループを編成し、グループインタビューを実施し、職場における推進の実像を捉え直し、WLB推進のためのさらなる課題を抽出すること、(2)WLB推進に対する「理解」が種々であり、その違いが大きく、WLB推進に対する意見(とりわけ否定的な意見)につながっている見られることから、WLB推進政策は、そもそも何を中心課題とすべきなのか、かつ、今後その推進を図るためには、何が必要なのかを改めて考察することを目標としました。
(1)に関しては、①大規模企業では、女性の育児休業取得は「当たり前」になりつつあるが、小規模企業では制度はともかく現実的対応は難しいのが現状、②男性育児休業については企業規模に関係なく、種々の理由から取得できる状況ではない、③企業規模の大小に関らず代表者の考えがワーク・ライフ・バランス推進に大きく影響している、④社会的潮流や担当業務の変化、「子育て期」を終えるなどのライフステージの変化によって、年代が進むにつれ「ワーク」と「ライフ」が次第にバランスを取れるようになる、⑤高度資格保有就業者のワーク・ライフ・バランス推進問題については、資格保有者の総数を増やすと共に、復職や転職といった人材流動性を一層高める支援策が必要、⑥ワークとライフいずれのスタイルをも各人・各世帯が選択可能な包括的取組みが求められる、⑦就業者から見ると「収入」と「制度活用」がトレードオフになる実情があり、経営側から見ると人事管理煩雑化等デメリットとなる面がある。この関係をWin-Winの関係に変えていく工夫が重要、などが明らかになった。ただし、グループインタビューという方法的な制約から、一般化に当っては慎重を期す必要がある。
(2)については、労働時間政策(所定外労働の削減、働き方の融通性確保、有休消化等)として考えるべきであることを論じました。
「賢く働き、残業0」を目指すことによって、①「時間インフラ」すなわち財政出動
を伴わない消費需要創出効果を発揮させることができる。福岡市においても、男性従業者515千人の残業を削減することができれば大きな需要拡大が見込まれる。②年金・税問題等への対策に欠かせない就業者増加政策への突破口を開き、かつ、③「アフター・ファイブ」の市民の自主的活動や交流等を通じて、知識創造都市の形成につなげるなどの効果を生じさせることが可能となることを論じています。
(3)その推進力として、「働き方改善運動」等の推進が不可欠であることを論じ、「働き方改善運動」(仮称)の推進と男性従業者(とりわけ子育て期男性)の「残業ゼロ」の実現などを中心に推進することが望ましいことを述べています。

研究期間

1年目 平成21年4月~平成22年3月

2年目 平成22年4月~平成23年3月

3年目 平成23年4月~平成24年3月

担当

岡田 允   特別研究員 ※主担当

田梅 朋子  研究主査

白浜 康二    主任研究員

研究報告書

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